続 ページ4
「来る」
なにが、とまでは言わなかったが、そのただならぬ雰囲気に一同周囲を警戒した。
敵の気配は感じないものの、刀剣達は己の主を護りながら辺りを見回す。
当の本人はまたいつもの穏やかな笑顔に戻っていたのだが、気は抜けない。
「主、何が来るのだ」
暫くして巴形が不安そうに主の顔を覗き込んだ。その瞬間。とつぜん今日一番の強い風が光忠達を襲う。
「うわっ」という声が様々な場所から聞こえ辺りは一時騒然となった。
だが次第にまたぽつぽつと会話が飛び交い始め、普段通りの活気ある演練場に戻っていった。
「ぬっ布がっ!布が飛ばされた……っ」
「んー……この髪型じゃあ格好つかないな」
山姥切と光忠は目に涙を浮かべ、同時に項垂れていた。
そんな二人に「まあまあ」等と声を掛けながら慰める主だったが、ふと何かを確認するように男の方へ顔を向ける。
つられてほかの刀剣達も男を見た。
「いやいや、強い風でしたな〜、大丈夫ですか?まあただの風だから大丈夫か。でね、最近の若者は仕事の取り組み方もなってないんですよーこれが。お遊びじゃないんだから―――」
「お、おい!主!」
今の今まで退屈で死んでますと言わんばかりの顔であの強風にも微動だにしなかった男の鶴丸が、肩を震わせながら彼の言葉を遮った。
男はそれにより激怒して鶴丸に怒鳴り散すも、それに物ともしない己の刀剣におののき始めたのか、
とうとう「どうしたんだ」と男が折れて尋ねる羽目になった。
「今のは!今のはどんな仕掛けがあるんだ!主!!」
そんな鶴丸に続き、相手側の刀剣達は好奇心いっぱいの笑顔で男に詰め寄っていく。
なんの事だかさっぱり分からない男はふと額の汗を拭おうとした。
そして、そこでようやく気付くのだ。
己の髪が無いということに。
「なっ、ない!俺の!俺のカツラが!」
先程まで世界の全てを見下していますという顔の男が、絶望の色に染まっていくさまはなんとも滑稽で、
それを見て楽しそうに笑う主と宗三はまさに悪魔のようだった。
刀剣達が「かつら!?かつらとは何なのか!!主!かつらとは!」とすかさず食いつき、それにより周囲に人集りができ始めた。
そのどさくさに紛れて山姥切が他の山姥切の布をこっそり盗み取ろうとしている。
まさに今
呆れてものも言えない状況に陥っていた苦労人の光忠であったが、
まあ皆が幸せならそれで……と思うことにして、考えるのをやめた。
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作者名:ナナリナ | 作成日時:2019年5月10日 18時