「蝶の泥*乱」 ページ24
スカートをひらひら靡かせる。
長い髪は風を斬るように舞う。
乱藤四郎は獲物を狩る獣の瞳で本丸中を練り歩いていた。その数歩後ろを骨喰と髭切がついて歩く。本丸内で戦装束に身を包む土足の三振りを、誰も咎めるものはいない。
遠くの方で雷の音が聞こえた。
「確か……僕の弟はこの辺りで見掛けたようだよ」
髭切が立ち止まり指をさすと、乱は目だけを其方へ向けた。
いつもみんなで大事に育てている野菜や果物等の畑、花壇が普段と変わりなくそこにはあった。
髭切がうーん、と唸って首を捻り「なにも感じないねぇどうしてだろうねぇ」とどこか他人ごとのように呟いた。
「次は池に行こう」
不意に骨喰がそう呟く。
「おや……どうしてだい?」
骨喰は髭切を見上げ、表情を一切変えずに淡々とした様子でその問いに答えた。
「鯉が一匹もいないと三日月が言っていたからだ」
雲行きが怪しくなってきた。そろそろ雨が降りそうだ。昼過ぎだというのにもうこんなに薄暗い。
さあさあと草木が風で揺れる音と、あの風鈴の音がいまの乱にとって耳障りでしかった。
「なら急ごう。雨は境を見失うから」
小走りで審神者部屋の向かいにある池へと向かう。なぜだろう。なぜか今日は汗が止まらず息も荒い。ただ走っているだけなのに。髭切と骨喰の顔をちらりと盗み見る。しかし二振りとも平然としているのだった。
「っ、あ」
何かに躓いた。それ程大きくもない、しかし避けることが出来なかった。業を煮やして足元に目をやると、
「え……これ」
そこには二尺ほどの大きな黒い蝶が羽根を動かしながら、大量の榊の葉の上にとまっていた。
強い風が吹いてもその場からはピクリとも動かない。
だがそれは乱も同じだった。長い髪もスカートも、ただじっと静かだった。
「うわ、」
気付くと腕に斑模様の斑点が出来ていた。まるで無数の木の葉が浮かび上がっているように見える。
「乱!!!」
突如、聞き覚えのある声が耳に入った。
その声の主は後ろにいるようだ。
「あ、いち兄!」
「乱、なぜ此処に………怪我はないかい?」
息を切らした一期が乱に駆け寄る。
その後ろを鶯丸が刀を抜いたままゆっくりと歩いて来た。
もう片方の手で、
黒く長い髪を引き摺りながら。
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作者名:ナナリナ | 作成日時:2019年5月10日 18時