「籠鳥雲が恋しかろ*宗三」 ページ22
月、天心にあり。
今宵は満月。ならば成すこと一つ………
「月見酒、だな」
「は、僕たちだけで?」
宗三は信じられないというように珍しく目を見開いた。
鶯丸が急に部屋を訪れて、「酒を用意した」「つまみも有るぞ」等と藪から棒に言うものだから、何かの前触れではないかと肝が冷えた。
「僕は近いうちに折れるのでしょうか」
ちびちびと酒を啜る宗三の、その問いに応えるように、隣で大人しく座る鶯丸が痙攣的な笑い声をあげた。
「なに案ずるな」
三日月型に弧を描く口唇が
「折れる時は折れるものだ」
と優美に動く。
「まぁー、そんなもんですよね」
「まあ、そんなもんだな」
酒宴とはとても言い難いこの奇怪な場が、月の光に照らされているなど、妙な話だ。
ゆったりとした悠長な時間が流れているわけでもない。ただ単調に黙々とふたりで酒を飲んでいるだけなのだ。
さあっと、風が凪いでいる。
縁側で腰を下ろすふたりの影が伸びていく。
少しずつ、少しずつ。
「ところで」
ぴちゃん、ぴちゃん、と水の音。
「うしろの正面はだれだとおもう?」
「はあ、」
鶯丸の言葉を足蹴にするような、ぶった斬る勢いで宗三は盛大に溜息をついた。馬鹿にしているのかと言わんばかりに……
「そんなの簡単です」
長い足を組み直す。
手に持つお猪口の中の月がゆらりと揺れる。
「うしろの正面なんて」
呆れ顔だがその瞳は楽しそうに笑っていた。
「唯の世間知らずな雛鳥が居るだけですよ」
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作者名:ナナリナ | 作成日時:2019年5月10日 18時