「知らぬが仏*小竜」 ページ21
雪花の舞う空は雲合いがよくない。
そんな空の下、小竜は縁側でその空を仰ぐ秋田に倦むことなく朝から隣に寄り添っていた。
空の青さを好きだと言っていた彼が、このどんよりとした厚い雲に覆われる空を瞳を輝かせながら見ているのだ。
その姿に目をひかれたのが事の発端だった。
「主君もきっと、この空を見ています」
ぽつり。独り言のように呟く。
小竜は適当な相槌を打ち乍、先ほど隣で同じように空を見上げていた鶯丸の少し湿った麩菓子を一つ手に取った。
出陣してくると言って立ち上がる鶯丸の背中を見送った時は、これを食べようなどと思っていなかったが。
「ん……意外と美味しいんだね、これ」
一口齧って不味いのであれば、茶で流し込もうと思っていた。しかしこれは予想に反して美味しい。
暫く咀嚼していると、秋田は「あ」と短い言葉を発した。
何かを思い出したような感じではない。
ただ、秋田は小竜を見て言ったのだ。ずっと空だけを見ていた秋田の瞳が、今度は小竜を映している。
瞳の中で小竜は苦笑した。
「どうかしたかい?」
「はい!あの木が泣いているように感じたので、拭ってあげなくちゃ……って思ったんです」
拭ってあげなくちゃ、のところだけ秋田の声がぐんと低くなって聞こえた。
だがそれが彼から発せられたものでは無い。彼の声と自然に混ざって聞こえてきた声なのだった。
「あの木とは………、あの桜の木の隣にある、馬酔木のことかな」
「はい!」と再び元気よく応える。
そんな秋田の頭を、小竜はにっこりと笑いながら撫で回した。
「拭ってあげてもいいけれど、拭うだけ、だからね」
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作者名:ナナリナ | 作成日時:2019年5月10日 18時