「ミぬは極楽*小豆」 ページ20
「お疲れさま。分からない事があったら……あぁそうだな、そこの矛盾狐にでも聞くと良い」
油揚の元の元の様子を見に来ただけの小狐丸は、本丸案内係である長義に横槍を入れられ見る見るうちに不機嫌になった。
「それは私のことか?」
その問いに対し「他に誰がいる」とでも言うように鼻を鳴らす長義。
火花を散らすように睨み合っていると、西日により双方の顔に影が落ち、あたりは次第に暗くなり始めた。
「あの、そろそろ…いいかい」
はっとした表情で長義が咳払いをする。
「小豆くん。すまないね。見苦しいところを見せてしまったかな」
「小豆……?」
はて誰のことだと小狐丸が顔を上げる。
そこには赤みがかった茶色の短髪を揺らす長身の男が、愛想の良いにこやかな笑みを浮かべていた。
数日前、新参者が来たと巴形が言っていたがどうやらそれがこの刀らしい。
しかしその数日間誰も見掛け無かったことから、消えた刀剣として仲間内では噂されていた。審神者は本丸にいると言っていたが短刀達ですらその姿を見た者はいない。
今までどこに居たのかと尋ねようとした丁度その時、タイミングよく鈴の音が風に乗ってリン、リンと耳に入ってきた。
「このおと。すずのおとかい?」
「土鈴だよ。まあ色々思うことはあるだろうが……気にしないでくれ」
そう言って長義は呆れたようにため息を吐いた。
「主は変な物に好かれやすくてね」という声もどこか皮肉じみていて、これもまた小狐丸の癪に障る。
「ふふ、へんなものか。そこにわたしたちもはいっているのだろう」
「さぁ如何だろうね。だけどあながち間違ってはいないんじゃないか」
「そうか。では、あれもそうなのだろうな」
小豆が指を指すその方向には、本丸を見下ろす程の大きな桜の木がどっしりと佇んでいた。
自由にのびのびと分かれた何本もの枝からは、積もる雪の間から桜の蕾がポツポツと見え隠れしている。
あれは随分と古い木ではあるが、穢れが溜まっている訳でもない。寧ろこの本丸を守護する神聖なものだと御神刀たちが口を揃えて言っていた。
「あの木はぬしさまが就任された当初植えられたものだ。ここが特殊な場所だからか育ちは早いが、穢れてなどない。変な物、とは無礼な奴よ」
鋭い眼光で小豆を睨みつける小狐丸。
だが、小豆はそれを物ともせず優しい笑みを浮かべたまま「ことばたらずで すまないね」と謝ったきり、口を閉ざすのだった。
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作者名:ナナリナ | 作成日時:2019年5月10日 18時