続 ページ17
「もー主さんはお馬鹿ちゃんだなぁ」
審神者の自室から遠く離れた炊事場にも、歌仙の怒声は鮮明に聞こえてくる。
それと同時に出入口に取り付けられた老竹色の暖簾が微かに揺れた。
「それにしても寒いよー」
格子が付いた縦横2尺程度の窓からはちらちらと雪の振る様が見えている。
乱は米を研ぐ冷たい手にぎゅっと力を入れ、やる気を絞り出す。
それを見ていた光忠が穏やかな笑みを浮かべるが、乱が先程捌いた魚と同じような瞳をしているのに気づいた。
いたたまれなくなったは光忠は「僕が変わろうか」と口を開くも、
「光忠殿」
すぐ側でいんげん豆を取っていた一期のひと声に、光忠は萎縮してしまう。
「これでは乱のためになりません。乱も助けを求めるのではなく自分で対処しなさい」
「だって、」
「だって等という言い訳を許した覚えはありません」
「だって!だってさあ!手が荒れちゃうんだもん」
見てよこの手!と見せ付けた乱の両手は多少赤くなってはいたものの、なんともない綺麗なものだった。この手で冷酷無惨に敵を切り刻んでいるなどと誰も思わない、綺麗で純粋な手だ。
はあ、と深く長いため息を吐いた一期は「あとで万事屋でハンドクリームを買ってあげるから」と言って乱を宥めていた。
なんだんだ言っても一期は弟に甘いものだ。
微笑ましくてまた、光忠は笑みを零した。
「夕餉の支度は順当に進んでいるかい」
ほどなくして歌仙が炊事場に顔を出す。
空になった湯呑みと菓子器が乗ったおぼんを手に、疲れきった様子で光忠達を見回している。
「やっぱり君達は手際が良い……助かるよ」
歌仙はふらふらと覚束無い足取りで流し台へ向かうと、おぼんから黄褐色の少しざらついた湯呑みと赤い菓子器を取り出す。
そして、スポンジを手にそれらを丁寧に洗い出した。
「ああ、君は素敵だね。力強いが奥ゆかしさもある。今日も全うに仕事をこなしてくれて感謝するよ」
「君は絵画の太陽のように真っ赤で美しい。あたたかく、それ故に情熱的だ。今日もありがとう」
心を込めて物に接する。
模範のようなその姿に一同吐息を漏らした。
「その子たち愛されてるね」と乱が言うと、歌仙は当たり前だというように自慢げに話し始める。
「僕が愛する為に選び、譲り受けたものだからね。まあ、譲り受けると言っても対価は支払った。しかし物は主人を選べないだろう。だから、せめて。僕が主人で良かったと思って貰えるよう接しているのさ」
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作者名:ナナリナ | 作成日時:2019年5月10日 18時