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「国?」
「はい。結構本格的というのかな。承諾書にサインさせられてね。」
「毎年来てたんですか?」
「そう。この国の子どもの成長について調査して研究するって。最初はちょっと抵抗あったけど、お礼も貰えたし、隅々まで診てもらえるのは悪くないと思って。」
統計のことか…?すばるくんが少し考えるような素振りを見せる。
「そういえば、検査が終わった時は必ずあの子ぐっすり眠ってた。」
「え?」
「色々調べられて疲れたんやろうね。ほんとにぐっすり。抱っこ出来た時はそのまま抱いて帰ったけど、5歳位になったら起きるまで病室で待ってたわ。」
「なかなか起きなかったんですか?」
「はい。それだけ眠れたら健康やって、担当の先生がよぉ言うてくれてた。」
「先生…」
すばるくんはまた少し考えて、また次の質問を投げかけた。
「丸山さん、結構早くに政府の教育機関に入ってますよね。」
「そう。あの子、10歳の時に、学校からその書類を預かってきました。」
書類には、様々な地域の子がランダムに選ばれていて、マルがその教育機関の受験資格を得たこと、授業料も生活費も全て無料だということが書かれていた。
「あの子を遠くの首都に行かせるなんて考えもしていませんでしたから、いくら無料とはいえ大反対しました。けど、あの子、頑固なとこがあって…」
マルは受験の前の日の晩に家を抜け出し、自力で受験会場まで行って合格をつかんできたらしい。おそらく合格は仕組まれたものやったと思うけど、母親に楽をさせたい一心やったんやろうな。
「ほとんど会えないまま、次は海外留学やって…。優しいあの子の瞳が少しずつ曇っていくのをほんとに心配していました。なんで意地でも連れて帰らなかったのか…」
悔しさに歯を食いしばるお母さん。すばるくんがそっと肩に手を置く。
「ありがとうございました。とりあえず、お二人はここに匿います。その後の生活はまた相談しましょう。」
「ありがとうございます。隆平のこと、これから私がしますので。本当に、何とお礼を言ったらよいか…」
「あ〜、もちろんお母さんにはそうしてもらいますけど、まだ体力が戻ってない中、介助するのは大変なんで、しばらくはまだこいつに頼みますわ。」
「あ、でも…」
「大倉、頼むわ。」
「はい。お母さんも疲れてはるやろうし、とりあえずはゆっくり休んでください。お母さんも倒れたら大変ですから。二人とも今は体力の回復です。」
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作者名:orange | 作成日時:2023年12月29日 23時