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「はあーーー…。」
あかん。今のは自分でもわかる。でかいため息。しんどいな。大倉さん、元気やろうか。電話してみようかな。でも迷惑かもしれんし…
営業の合間の空き時間。一人、喫茶室でスマホをいじリながら迷っていると、賑やかな社員たちの声が近づいてくる。
「あ!あの話、聞いた?」
「なに?」
「企画部の大倉課長。彼女がいるって!」
え?
「聞いた聞いた!ちょーぜつ美人なんやろ?まぁ、課長のスペックの高さから言えば当然やけど。」
「取引先の娘さんらしいやん。どっちもええの掴まえたなぁ。」
彼女…?大倉さんに彼女?なにそれ…
…そうか。…あれ。僕、落ち込んでんの?まさか。なんで落ち込む必要なんかあんねん。
大倉さんは大事な仕事仲間で友人。それ以上でも以下でもない。なんも期待もしてないし、落ち込むこともない。
「ふぅ。」
あんな話、僕には関係ない。大倉さんに彼女がいようが結婚しようが、友達なんやから今の関係を続けるだけ。
「よし。仕事しよ。」
一生懸命頭の中を切り替えてオフィスに戻る。
「課長、出ます。」
「ん。頼むわ。」
淡々と営業に向かう。いつも通りの明るい僕。冗談を言って、アホなことして。そう。いつも通り。
◇
「丸山さん!」
大倉さんがようやく出張から帰ってきた。昼食に誘われた時は、噂のこともあって少し迷った。でも、大倉さんのいつもの穏やかな笑顔に心が弾む。
「大倉さん、おかえりなさい。」
「久しぶりですね。オフィスにいるときもそんなにしょっ中会えるわけじゃないですけど。」
「そうですね。」
楽しい。大倉さんが目の前にいるだけで、気持ちが明るくなる。
「どうかしましたか?」
昼食後、何となく落ち着きのない大倉さん。
「いえ、あの、これ。お土産です。」
「え…僕に?」
「はい。…どうぞ。」
「え、いいんですか?」
「もちろん。」
その言葉に、戸惑いよりもうれしさが勝った。
「ありがとうございます。開けてもいいですか?」
了承を得て、包み紙をそっとはがしていく。
「え、スノードーム!?わ、めっちゃかわいい!」
可愛らしくデフォルメされたしゃちほこと名古屋城。
「めっちゃうれしいです。どうしよう…机に…いや、家に持って帰って飾ります。」
「気に入ってもらえてよかった。結構迷ったんですよ。」
…うれしい。大倉さんが自分のためにこんなふうにしてくれることがうれしい。泣きたくなる。
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作者名:orange | 作成日時:2022年12月27日 14時