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『自分の気持ち、蓋をせんと開放してあげ?』

ふと、先生の言葉がよみがえる。開放なんて、どうすればいいんやろ。気持ちを開放するってどういうことなんやろう…。

翌日、すっかり元気になった村上さん。

「マル、ありがとうな。ヨコが来てくれて焦ったけど、めっちゃうれしかった。」

「今度からは怖がってんとちゃんと自分で聞いてくださいよ。」

「そやな!頑張るわ。」

「あ、あと…」

大倉さんに話してしまったことを謝罪する。

「かまへんかまへん。それやったら、なんも気にせんと、今度4人で飲みに行こう。俺らの話、聞かせたるわ。」

「え〜…それはちょっと…」

「遠慮すんなって!」

違う。返しがやっぱりおかしい。でもニコニコしている村上さんを見たら、本当によかったと思えた。自分の身近にいる人には笑顔でいてほしい。



「またよろしくお願いします。」

その日の最後の営業を終え、資料を今日中に作っておこうと会社に戻る。

「お父さん、いってらっしゃーい!」

子どもの声。無邪気な声に心が和む。今から仕事?なんとはなしに振り返ると、母親と子どもの姿。その先には…

「え…」

「いってきます。ほんなら頼むな。」

「はい、気をつけて。」

その姿と声に動けなくなって、その場に立ち尽くす。

やばい、見つかる。早く動かないと。

でも遅かった。母子を笑顔で見送ったその人がこちらを向く。笑顔が驚いた表情へと変化した。

「隆平…」

口元が僕の名前を形作る。

「お前、なんで…」

近づいてくる。昔、近づくなって言ったくせに、なんの遠慮もなく僕の目の前に迫ってくる。

「隆平。」

怖い。こんなところで取り乱したくない。落ち着け。もう昔の僕じゃない。

「お前、全然変わってないな。昔のままや。」

腕が掴まれる。あの手や。ゴツゴツとしたあの手。背中に寒気が走る。

「もう仕事終わりか?俺はこれから用事やけど、ちょっとだけ時間あるから話そう。」

何を言ってるんやろ。話すことなんて何もないのに。

「ほら、来いよ。」

抵抗すればいいのに、腕を引っ張られるまま付いていく。何をしてんねん。毅然とした態度をとらないと…

「お前、スマホ鳴ってるぞ。」

「え…」

あまりの怖さに音もシャットアウトしてたのか、ポケットの中でうるさく鳴っているスマホにはじめて気づく。

そうや、今日は営業先とのやり取りが逃せなかったから、空き時間は音がなるようにして、そのまんまやった。

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作者名:orange | 作成日時:2022年12月27日 14時

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