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『自分の気持ち、蓋をせんと開放してあげ?』
ふと、先生の言葉がよみがえる。開放なんて、どうすればいいんやろ。気持ちを開放するってどういうことなんやろう…。
翌日、すっかり元気になった村上さん。
「マル、ありがとうな。ヨコが来てくれて焦ったけど、めっちゃうれしかった。」
「今度からは怖がってんとちゃんと自分で聞いてくださいよ。」
「そやな!頑張るわ。」
「あ、あと…」
大倉さんに話してしまったことを謝罪する。
「かまへんかまへん。それやったら、なんも気にせんと、今度4人で飲みに行こう。俺らの話、聞かせたるわ。」
「え〜…それはちょっと…」
「遠慮すんなって!」
違う。返しがやっぱりおかしい。でもニコニコしている村上さんを見たら、本当によかったと思えた。自分の身近にいる人には笑顔でいてほしい。
◇
「またよろしくお願いします。」
その日の最後の営業を終え、資料を今日中に作っておこうと会社に戻る。
「お父さん、いってらっしゃーい!」
子どもの声。無邪気な声に心が和む。今から仕事?なんとはなしに振り返ると、母親と子どもの姿。その先には…
「え…」
「いってきます。ほんなら頼むな。」
「はい、気をつけて。」
その姿と声に動けなくなって、その場に立ち尽くす。
やばい、見つかる。早く動かないと。
でも遅かった。母子を笑顔で見送ったその人がこちらを向く。笑顔が驚いた表情へと変化した。
「隆平…」
口元が僕の名前を形作る。
「お前、なんで…」
近づいてくる。昔、近づくなって言ったくせに、なんの遠慮もなく僕の目の前に迫ってくる。
「隆平。」
怖い。こんなところで取り乱したくない。落ち着け。もう昔の僕じゃない。
「お前、全然変わってないな。昔のままや。」
腕が掴まれる。あの手や。ゴツゴツとしたあの手。背中に寒気が走る。
「もう仕事終わりか?俺はこれから用事やけど、ちょっとだけ時間あるから話そう。」
何を言ってるんやろ。話すことなんて何もないのに。
「ほら、来いよ。」
抵抗すればいいのに、腕を引っ張られるまま付いていく。何をしてんねん。毅然とした態度をとらないと…
「お前、スマホ鳴ってるぞ。」
「え…」
あまりの怖さに音もシャットアウトしてたのか、ポケットの中でうるさく鳴っているスマホにはじめて気づく。
そうや、今日は営業先とのやり取りが逃せなかったから、空き時間は音がなるようにして、そのまんまやった。
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作者名:orange | 作成日時:2022年12月27日 14時