４２話 ページ43
─NOside─
『あ、これ言っちゃダメなんだっだ。今のなしで！』
「なしにできる程軽い話じゃあねェだろう...ノース、おめェ何でおれに話した」
おちゃらけて流そうとするノースに対して白ひげは真剣な表情で問いかける。ゆらゆらと揺れていたノースの身体はピタリと止まり、俯きがちに首を傾げる。垂れた髪が彼女の表情を隠した。
部屋中を泳いでいた水魚たちは一斉にノースの周りに集まり、髪や手、頬に慰めるようにキスを落としていく。大丈夫だと言うように指をくるっと回せば水魚たちはまた泳ぎ出す。
ゆっくりと顔をあげた彼女は困ったような笑みを浮かべていた。
『オヤジさんを脅すつもりなんて微塵もないですよー。ちょっとだけ重かったから、軽くしたかっただけです。こんな事エースにもじーちゃんにも、他の誰にも言えないので。オヤジさんじゃないと言えないから』
ごめんなさい、と小さく声に出したノースの先程までの能天気さはどこへやら。胡坐をかいていた足を降ろして頭を下げた。自己満足の我儘を押し付けた罪悪感と後悔が渦巻いているのだろう。
十年以上胸の内に隠してきたものはノースの成長と共に重くなっていった。海軍や世界政府のやり方を知れば知る程自分がどれくらい彼らにとって脅威なのか、排除すべき対象なのかを理解した。
この時代、海賊王の子供に生まれてこなければ、彼女が強くなる必要も地位を得る必要も家族と離れる必要もなかったのだろう。
けれども、彼女にとってはそれが全てだ。会ったことのない両親も、立場上敵となった兄弟も、こうでなければ出会わなかった。だからそんな「もしも」を考えたとしてもその世界を望むようなことを彼女はしない。
ただ、今日みたいに背負ったそれら全てが実体を持ったかのように重く圧し掛かってくることがある。多くを持っているにも関わらず、彼女には平和の為に使うことが出来ない。
白ひげが未だに頭を下げるノースの名を呼んだ。こっちに来いと。
立ち上がった彼女に水魚たちが寄り添う。彼女の表情は今も曇っていない。
大きな手がノースの身体を包み上げ、布団の上に座らせた。
「何を謝る？子が親に甘えておかしいことなんざ一つもねェ。おれァノースの危険が増すのを心配してんだ。ウチを出ればおめェは守られることを良しとしねェだろう」
『そーいう約束ですからねぇ。それに、大事なもの一つでさえ守るのは難しいですから』
「そんな事は言われなくとも分かってらァ」
『わはは！』
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作者名：えると。 | 作成日時：2022年9月2日 22時
