１８話 ページ19
─クザンside─
目の前にいる酷い隈を携えた彼女は感情豊かで、笑ったり怒ったり拗ねたり、優しくて誰にでも壁を作らないような良い子。立場なんて関係なしに個人として接してくれる彼女を慕う者は多い。そんな彼女が『旅に出る』なんて誰が予想できるよ。おれはてっきり兄貴に会いに行くだけだと思ってたのに。
「なぁに、海軍やめんの？」
『いいえ？無期限休暇(無断)を頂くだけです。目的を達成し次第戻るので早ければ一週間とかですかね。遅くても半年後には戻ります』
「あ、そう。やめねェなら良いんだけど...センゴクさんが黙って行かせてくれっかねぇ」
『何を言われても絶対行くのでモーマンタイです。力づくで止めるってんなら私だって黙ってませんからね』
「うわ、それ絶対おれも駆り出されるヤツじゃん。バレねェように行ってよ？」
『センゴク元帥次第ですねぇ』
へら、って笑うノースちゃんは今にも寝そうだ。手を伸ばして頬に触れればおれよりも低い体温に要らない心配をしてしまう。おれの半分も生きてない子供だ。能力者でもなかったのにたった三年で中将にまで上り詰めた実力者。その上でつい先日能力者になったってんだからこえェもんよ。彼女の実力が更に上がったんだ。大将クラスになっててもおかしくねェ。
「目的を教える気はねぇのね」
『ないですねー。それより眠たいんですけども...』
「おー、寝な寝な。あ、なんならおれと一緒に寝る？添い寝しよっか？」
『けっこーです。貴方は仕事に戻ってください』
「あらら、ザンネン。んじゃおれはお暇しよーかな」
しゃがんだ体勢から立ち上がればノースちゃんも立ち上がった。律儀なこって。援軍に行く気力もないくらい疲れてるだろうに。お付きの子を信頼して代わりに行かせたんだろうけど、ノースちゃんの代わりはちょっと荷が重いんでねェの。
「そういやコートはどうしたのよ」
『私よりも"正義"が似合う子に預けました』
「ノースちゃんよりも、ねぇ...」
『クザンさんの正義も誰か継いでくれますかね？』
「おれが死ぬみたいな言い方しないでよ。ゆるゆる生きてくつもりなんだからさ」
『ねぇ、クザンさん』
「ん？」
『私、家族が好きです。兄も、両親も、じーちゃんも、弟も』
「えぇー...どんな反応すりゃいいの？おれ宛だったら喜んだんだけど？」
『誰かに言いたかっただけですよー』
幸せそうな表情しちゃってさぁ...
ねぇ、ノースちゃん。おれはどうしたらいいのよ。
▽
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 8人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：えると。 | 作成日時：2022年9月2日 22時
