四十三話 ページ45
やはり、俺は黒髪の俺は浮いて見えるのだろう。おまけに身長もこの世界じゃ巨人のように高いやつが多いから、日本人の平均身長の俺は小さいように見られている。
ヴィルさんを期待したファンは多いのだろう。
だがふたを開けてみれば実際、平凡でそこまで美人でもない俺がステージに上がった瞬間。疑問の声や、罵倒な声が上がってくるのはわかっていたことだった。
共演者から白い目で見られ、侮られ、嘲笑された。Aは甘んじてその扱いを受け入れる。
「はぁ？なにこの稚魚たち。Aが上がって来た瞬間、バカにし始めたんだけどぉ、ちょームカつくぅ」
「まぁまぁ、フロイド。落ち着いて」
そう遠くからリーチ兄弟の声が聞こえてくるのに、こんな時までかと笑いがこみ上げてくる。
＿＿あいつらに、見られてるんだったら。俺もしっかりしねぇとな。
司会者が俺の名前を呼び、曲を紹介する段階で、バカにするような笑いが辺りから沸き起こるが、その雰囲気を一瞬で切り裂いたのは、他でもない俺の声だった。
ここぞと見せる勝負本能。
軽く、息を吸ったAは先ほどの激しい音と打って変わって、優しい声で歌いだす。
Aはステージ一つで会場全体を魅了した。
歌で惹きつけられた観客の視線を奪うようにギターをはじき、客を煽るように流し目を一つ。うわ…と声を出せずにいる客も居れば、俺に煽られて手拍子に興じる者もいる。誰もヴィルさんの代わりとしてステージに立っている一般人という前代未聞さなど些末事のように目もくれず、一瞬も見逃さないよう目を皿にしてAに集中していた。
曲のサビに差しかかり、振り付けはさらに激しさを増した。力強く、男の決意と思慕と弱さ全てを歌詞に乗せた歌は情熱的なリズムと曲調でAの喉を灼く。
冷めない熱情と、乾きにも似た渇望。
未だ、高校一年生とは思えないほどの色気を含みながら歌うAに、ゴクリとステージを見ていたヴィルが生唾を飲んだ。
やがてAは、視線をカメラマンへ向け目にも止まらぬスピードでギターをさばく。雷鳴に似た鼓動がカメラマンを揺らした。直後走ったピリピリとした微弱な電流が流れたかのような錯覚に陥る。
「やっばぁ〜A！！」
「やはり……、彼歌上手かったんですね」
「…ええ、そうですね」
ステージで熱唱しているAを見つめて、オクタの三人がやや興奮気味にそう話した。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 265人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
レオ - とっても面白いです。続きが気になります。 (1月4日 8時) (
レス) @page48 id: 8c9a5c91e3 (このIDを非表示/違反報告)
夕闇柳 - たまたま30話見ていてカリムがカルムになっていました。 (11月25日 8時) (レス) @page31 id: a9dd4c9262 (このIDを非表示/違反報告)
ウイ(プロフ) - ふぎょあ、完結されてるんですね…この作品、めちゃ好きです。まだ占ツクにログインしてなかった頃、読みまくってました笑 ねっとり様に届くか分かりませんが、更新、お疲れ様でした。ほんとに本当にこの作品がこれからも大好きです！！！！！！ (6月26日 7時) (レス) @page48 id: 154e73901c (このIDを非表示/違反報告)
ねっとり - 雨中猫さん» アカウントを作っていなので急遽この形ですが作者です。コメントありがとうございます。「命に嫌われている」素敵ですよね、番外編でも他の歌とかも書いてみたいので気長に待ってくれると嬉しいです (2022年2月5日 23時) (レス) id: ad0790befa (このIDを非表示/違反報告)
雨中猫 - 主人公ちゃんに命に嫌われている歌ってもらいたいです！ (2022年2月4日 19時) (レス) @page27 id: 79b86edfa1 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ねっとり | 作成日時：2022年1月20日 16時
