三十五話 ページ37
「そもそも、貴方すでに自分のための行動からズレてます」
Aの瞳に光はなく、ただただ冷たい声でジャミルを見ていた。
「罪のない、家族、寮生にまで手を出して、挙句の果てには寮もボロボロ」
クスクスと笑うAは、どこか恐ろしく見えた。
「それを、善とは笑わせる」
「カリムさんと一緒にいた中で、よくここまで濁れましたねぇ」
俺は渾身のゲス顔を披露する。アズールから習った相手を出し抜く煽り文句だ。しかし、やがて喉の調子が良くなっていることに気が付いた。アズールがAから遠のいたことによって、魔法が切れたんだろう。元の地声に戻っていた。
もう俺の仕事は終わるし、着飾る必要もないな、と俺は自分の黒髪に手をやって、ずるりと引き剥がした。
「俺、前の猫かぶりのアンタより、今の欲望にどっぷり浸かったアンタのほうが好きだわ」
Aの元々の短髪が風に吹かれ揺れる。化粧を落としていないため、ウィッグを取った今でも普通に美男子だ。
「っ」
俺の変わりように絶句したのか、ジャミルさんが息詰まるのを察して俺は声をかけた。
「これ、ウィッグなんだよ。最初は、ズレてきつかったんだけど……、ほら、カリムさんって髪綺麗な方が好きなんでしょ？手入れとかちょー大変だったんだよねぇ。だんだん、ジャミルさんにも感づかれるしね、もうヒヤヒヤだったわ」
頭に着けていた重い髪飾りがガシャンと音を立てて、床に散らばる。その途端、ジャミルさんが声を上げて笑った。
「あーそうだったのか。まさか、あの新しく入って来た新入生にカリムが惚れるとはなぁ」
それに俺はクスクスと腹を抱えて笑う。
「まぁ、俺ふつーの顔だから、化粧乗りは良いって言われたからなぁ、俺のことを好きでいてくれたカリムさんだが……俺、男に興味ねぇーんだわ。だけど面白いからカリムさんには何も言わないで欲しいなぁ」
苦笑いを浮かべた俺は、もう毒を消化したのか、だんだん魔力量が少しずつ戻ってきているジャミルさんの元から離れるように急いで足を動かす。
気絶していた踊り子の女の人達の身体を支え、今すぐ寮から出て行こうとする。しかし、その間爆発ではだけた踊り子の女の人の生肌を見てしまい、バチーンッ！と勢いよく自分の頬をぶつ。
「いやっ、事故だ。これは事故だ……」
この日を境に、カリムの初恋の謎の踊り子の美女は永遠にその姿を消すこととなる。
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レオ - とっても面白いです。続きが気になります。 (1月4日 8時) (
レス) @page48 id: 8c9a5c91e3 (このIDを非表示/違反報告)
夕闇柳 - たまたま30話見ていてカリムがカルムになっていました。 (11月25日 8時) (レス) @page31 id: a9dd4c9262 (このIDを非表示/違反報告)
ウイ(プロフ) - ふぎょあ、完結されてるんですね…この作品、めちゃ好きです。まだ占ツクにログインしてなかった頃、読みまくってました笑 ねっとり様に届くか分かりませんが、更新、お疲れ様でした。ほんとに本当にこの作品がこれからも大好きです！！！！！！ (6月26日 7時) (レス) @page48 id: 154e73901c (このIDを非表示/違反報告)
ねっとり - 雨中猫さん» アカウントを作っていなので急遽この形ですが作者です。コメントありがとうございます。「命に嫌われている」素敵ですよね、番外編でも他の歌とかも書いてみたいので気長に待ってくれると嬉しいです (2022年2月5日 23時) (レス) id: ad0790befa (このIDを非表示/違反報告)
雨中猫 - 主人公ちゃんに命に嫌われている歌ってもらいたいです！ (2022年2月4日 19時) (レス) @page27 id: 79b86edfa1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ねっとり | 作成日時：2022年1月20日 16時
