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高専に着いたのは約束の時間の10分程前。職員室には余裕で着くだろう。五条さんは微妙に遅れてやってくるのだろうが。
「んじゃ、楽しんでくださいッスね!」
「ありがとう。お疲れ様」
任務終わりだというのに元気よくその場を去っていく新田さんを見送りつつ、私も歩みを進めた。メインはお見舞いだというのに「楽しんで」なんて、と苦く笑って。
秋のつるべ落としとはよく言ったもので、辺りには闇が忍び寄ってきている。高専内の寺社仏閣はその色をより濃くしており、呪霊などいないと分かっていても1人で長居はしたくない。
そんな空気に無意識に足早になっていたらしく、職員室に着く頃には息が若干上がっていた。
「あ、来たね」
一息ついて扉を開けると、1番予想していなかった人物の声が聞こえた。
咄嗟に壁の時計とその男に視線を交互させる。まだ長針はてっぺんに触れてもいない。
「何かあった?」
「五条さんが時間守ってるの珍しくて」
「…喧嘩売ってる?」
「あなたの日頃の行いでしょう」
呆れたように口を挟んでくれた七海に感謝する。どうやら彼は定時帰宅する所らしく、ジャケットをさらりと羽織っていた。
私も自分の荷物を手早く纏めて帰宅の準備を終えると、それを見ていた五条さんが「もういい?行くよ」とソファから立ち上がった。
「もしかして、結構早くから待ってました?」
「な訳ないじゃん。僕もちょっと前に来たばっか」
「さっきまでAはまだかと煩かったのはどこの誰ですか…」
「え?」
私がその声の方を振り返った時には、七海は言い捨てて職員室を出るところだった。慌てて「お疲れ」と声をかけたが、届いていないだろう。
五条さんは、何も言わない。つまり煩かったのは事実なのだろう。何となく顔が見づらくて、同期を見送った姿勢のまま言葉を投げかける。
「本当はいつから待ってたんですか」
「20分、くらい前」
僕の任務がさっさと終わっちゃっただけで、別に他意がある訳じゃないし。
そう続けられた声はどんどん尻すぼんでいって、最後の方は上手く聞き取れなかった。それでも意味は十分理解してしまった私は思わず振り返った。
サングラスでは隠しきれない顔に、思わず頬が緩む。
「…ありがとうございます。待っててくれて」
「だから僕は―――」
「もう行けますよね?行きましょう、ほら」
一瞬、胸の痛みなど忘れてしまった。子どもみたいにうっすら染めたその顔が、可愛く見えてしまったのだ。
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ユシュケ(ユコ)(プロフ) - まめさん» ありがとうございます〜!すごくすごく久しぶりにまた更新しましたのでまた読んでやってください✩ (2022年12月20日 1時) (レス) @page48 id: cf63eb9bb2 (このIDを非表示/違反報告)
まめ(プロフ) - ずっとずっと待ってました!すごくすごく久しぶりに開いたら通知が来ていたので嬉しすぎました泣また頑張ってください!応援してますー! (2022年9月25日 21時) (レス) @page47 id: 3de5d823fb (このIDを非表示/違反報告)
ユシュケ(ユコ)(プロフ) - 妃さん» こちらこそありがとうございます!!時間が経ってしまいましたがまた読んでいただけると嬉しいです♡ (2022年9月4日 1時) (レス) id: cf63eb9bb2 (このIDを非表示/違反報告)
ユシュケ(ユコ)(プロフ) - chiaki0708さん» オリジナル要素多すぎて読みにくいかな…?と思っていたのでそれを聞けて嬉しいです!すこ~しずつまた更新していくのでよろしくお願いします! (2022年9月4日 1時) (レス) id: cf63eb9bb2 (このIDを非表示/違反報告)
ユシュケ(ユコ)(プロフ) - はるきちさん» ありがとうございます!ちょこちょこ再稼働し始めたのでまたよろしくお願いします…!! (2022年9月4日 1時) (レス) @page47 id: cf63eb9bb2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ユコ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/oorsayui/
作成日時:2021年3月18日 11時