【呪術廻戦】目の前の最強さん

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Aside


突然の邂逅から日を空けずして、別のことに頭を使おうと朝から晩まで任務を詰め込んでいた。
事情を知っている人には“破談資金があと少しで稼ぎ終わるから”と告げて。
七海や家入さん、伊地知にまで休息を勧められるけれど、今自分の時間を作ってしまったら呪術師(この場所)に戻って来れなくなる気がしていた。
立ち止まったら、多分転ける。

そう必死になっていた時のこと。



「君のお母さん手術したって言ってたけど、体調どうなの」



向かい合ってトーストを齧り付く婚約者が不意に言葉を投げかけてきた。相変わらず寒色を纏って私を捕えるその目は、最近少し柔らかくなったように感じる。何の心境の変化かは分からないけれど、お互いの空気も以前ほど張り詰めていない。
先日父と交わしたメッセージの記憶を呼び戻し、ホットミルクを一口飲んだ。



「まだ安定はしていないらしいです。私もここのところ忙しくて術後1度も会えていないですが」
「そうなんだ。じゃあ今日の夜会いに行かない？」



予想だにしていなかった提案に、左手の食パンが転げ落ちた。奇跡的にお皿に落ちたそれを確認して、私は今夜の予定を頭に浮かべた。幸か不幸か、今日に限って定時後のスケジュールは真っ白。まあ彼の場合それを知っての上での提案なのだろうが。



「急ですね」
「今から行こうって転居初日に言い出したのは誰だったっけな」
「…あ、れは」
「しかも僕の術式頼みの案だったし」



ぐうの音も出ない。強引に連れ出して蒼使わせた私がまだ10時間ほど先の予定にケチつけるなんて。
素直に過去の言動を謝ろうとすると、「今はそれを責めたい訳じゃないよ」と本題に戻される。



「単純に心配なんだよ。このままだと僕のお義母さんになりそうだし、一応治療費肩代わりしたの僕の家だし」
「前者はどうにかするつもりですけど、ご心配おかけしてすみません」



申し訳なくなって素直に謝ると、五条さんは僅かに眉尻を下げた。これは機嫌が悪くなった時の癖。あれ、私、何かまずいことでも言っただろうか。
でも、もそりとパンに再び齧りつきながら顔色を伺う頃にはそれも無くなっていて、益々心境が分からない。



「まっそれは僕がしたくてしてるんだからいいんだけどさ。で、返事は？」
「え？あ、はい…分かりました」
「じゃあ17時に職員室ね」



遅刻しないでね、という言葉をそのまま返してやろうと思ったのは言うまでもない。


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