128 ページ28
.
『ちょっと、ねえ、聞いてんの?』
また一段と冷たさを孕む声に返事をするように、ヒュッと喉が音を立てる。
その時にようやく自分が過呼吸になっていることが分かった。段々と指先や足先がじんじんと痺れて、持っていたスマホは派手な音を立てて地面に落ちた。
頭が重い。体が強ばる。息が出来ない。苦しい。誰か。
「た、すけて…」
肺を引き攣らせて呼吸する合間に無意識に吐いた声は、自分でも聞き取れない程にか細く頼りないもので、少し遠のいてしまった電話口には届いてすらいないだろう。
視界に黒い膜が降りていくのを感じながらスマホを見ると、“五条悟”と表示された画面はまだ秒数をカウントしている。
何の用だか分からないけれど、ごめんなさい。またかけ直すから、もう私からは通話終われないから、早く切って。
四肢の硬直を感じながら、私は冷たいコンクリートの上に
寒いのか暑いのかも分からない。意識が遠のこうとしている事だけが確実で、もう何も見えない目を閉じた。
地面に接している部分から体温がじわじわと消えていく。たかが過呼吸で死にはしないだろうけど、もしかしたら死ぬ時はこんな感覚なのかもしれない。
体と地面が一体化していくような重さ。ぐるぐると平衡感覚が狂い、吸い込まれるように感じる地球の重力。このまま存在ごと私が消えてしまえば、全て楽になるのだろうに。
五感が消えゆく中で何とか仕事をしている頭は、走馬灯ではなく“死”について熟考しているらしい。こんな時に縁起でもないと呆れていれば、眠気にも似た何かが私の意識に指を引っ掛けた。どうやらそれもここで終わりらしい。
荒い呼吸音だけが辛うじて耳に届いているのを感じて、眠りでも死でもない何かに身を委ねようとした。
「―A―――ぇ。―――――か―? 」
誰かの声と同時に、不自然な浮遊感が私を襲った、気がした。
相変わらず下手くそで早すぎる呼吸の合間に、誰かがものを言う。
私の名前。誰かが私を呼んでいる。誰。もう目も鼻も手も使えないから、あなたを知る手段がない。
でも微かに伝わってくる体温は、不自然に折り曲げられた手指を包み込んでいる。
「―――もう大丈夫、だから」
やけにはっきりとその言葉は耳に届き、呼吸のペースが僅かに落ちる。
ずっと自分に言い聞かせてきた言葉と同じはずなのに、まるで魔法のような言葉だ。
ぼんやりと目を開けると夕焼けの下に碧い空が2つ、揺れていた。
.
555人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「呪術廻戦」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ユシュケ(ユコ)(プロフ) - まめさん» ありがとうございます〜!すごくすごく久しぶりにまた更新しましたのでまた読んでやってください✩ (2022年12月20日 1時) (レス) @page48 id: cf63eb9bb2 (このIDを非表示/違反報告)
まめ(プロフ) - ずっとずっと待ってました!すごくすごく久しぶりに開いたら通知が来ていたので嬉しすぎました泣また頑張ってください!応援してますー! (2022年9月25日 21時) (レス) @page47 id: 3de5d823fb (このIDを非表示/違反報告)
ユシュケ(ユコ)(プロフ) - 妃さん» こちらこそありがとうございます!!時間が経ってしまいましたがまた読んでいただけると嬉しいです♡ (2022年9月4日 1時) (レス) id: cf63eb9bb2 (このIDを非表示/違反報告)
ユシュケ(ユコ)(プロフ) - chiaki0708さん» オリジナル要素多すぎて読みにくいかな…?と思っていたのでそれを聞けて嬉しいです!すこ~しずつまた更新していくのでよろしくお願いします! (2022年9月4日 1時) (レス) id: cf63eb9bb2 (このIDを非表示/違反報告)
ユシュケ(ユコ)(プロフ) - はるきちさん» ありがとうございます!ちょこちょこ再稼働し始めたのでまたよろしくお願いします…!! (2022年9月4日 1時) (レス) @page47 id: cf63eb9bb2 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ユコ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/oorsayui/
作成日時:2021年3月18日 11時