天才じゃない44 ページ43
「これ、隠し味何入れてんの?」
「……は?」
いきなり朝の味噌汁の隠し味を聞かれるも、隠し味なんてないんだけれども……?
いや、本当に普通に作ってるだけなんだけど……。
「いきなりどうしたの?」
「いや、なんか飲みなれてるはずのお袋のより好きだから、なんか別のもん入れてんのかと。」
「……ソウデスカ…。」
「隠し味教えろよー。」と4杯目のおかわりをした鉄にぃに「別に。」とだけ返しておく。
だから唐突に『好き』って言うのやめてよ。
大人しく味噌汁のおかわりを運ぶと、とても美味しそうに飲むものだからこっちも嬉しくなるのは仕方がないだろう。
作業として行っていた料理が好きになれたのは、ママやパパ、鉄にぃや研磨が美味しいって言ってくれたから
笑ってくれたから。
「そういえば、鉄にぃ志望校は決まったの?」
「音駒大学。」
「即答とは珍しいね。何か夢とかあったり?」
「なんとな〜くある。」
鉄にぃに将来の夢があるとは。
本人はとぼけているが、目が少し光ったのを見逃すほど馬鹿ではない。
ならばその、学力のサポートをするのも妹の勤めだろう。
「家から通えるしな。」と付け加えるのはママとパパを安心させる為だろう。
「へぇ…。華の大学生ライフ、か。……ちなみに鉄にぃ彼女作らないの?」
「作んない。今は手間のかかる妹と幼なじみで両手塞がってるからな。」
手間のかかる、か。
やはり少なからず鉄にぃに迷惑をかけている。
それはママとパパも同じで。
誰も、言わないでくれてるだけ。
「大事なもんはしっかり両手で持たねぇと勝手にどっか行くってこの前学んだし。」
は?
『大事なもん』?
鉄にぃはと言うと、「熊本だろ?人質だろ?あと迷子に……。」と指折り数えていた。
『大事なもん』。
そこに気持ち悪い私が居ていいかは…不安になる。
それでも、こんな私を『大事なもん』と言ってくれた鉄にぃに恥をかかせるわけにはいかない。
だから、
「私も…鉄にぃの恥にならないよう、頑張る。」
それは誰に言ったわけでもない。
誰にも聞こえない大きさの、ただの自分への誓い。
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作者名:ドク | 作成日時:2022年8月5日 17時