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天才じゃない43 ページ42

黒尾side


研磨は話した。



足がないから迷惑ばかりかけていること。


嫌な思いもさせてしまっていること。


死んでた方がみんな楽だったんじゃないか。


迷惑ばかりかけて、何も返せてない。


それは虐待の時とは全く違うけど『怖い』と、『辛い』、『苦しい』と思っていること。



それは、俺らが聞いたこと無かった、Aの本音で。



「だからずっと、ずっと怖くて辛くて苦しかったって。Aは人の感情に敏感だから、自分の感情を殺して…生きてきたんだと、思う。…俺も、全く…わからなかったから。」

「…そん、なこと、ずっと、思って…。」


そこまで、Aを追いつめたつもりも、何もなかった。
ただ、『家族の手助けをする』のは当たり前だと思っているから。

けど、それを負担に思っているのならばーー。


「でも。」と研磨が言葉を続ける。


「自分が初めて『好き』って言えた時、色々吹っ切れたみたい。それまでは自分が好きって言う価値……『生きてる価値がない』って泣いてたから。『何も返せない』なら『施設に行った方がよかったんじゃないか』って。」


『生きてる価値』

『何も返せない』

『施設に行った方がよかったんじゃないか』


それは信じられない言葉で。
俺は足を止めた。


「だから…俺が『生きる価値』をあげた。」

「生きる、価値を?」

「俺らは3人でひとつだから、欠けたらダメだってこと。そしてAが居なくなったら俺が単純に悲しいし、嫌だって。…そこに居るだけでいいんだって、伝えたよ。」


「そうしたら、また大泣きしたけどね。」と研磨は話す。
『生きてる価値』を俺らにする。
『俺らが生きてて欲しいから』『そばに居て欲しいから』、だから『生きて欲しい』。


『生きてる価値』は、俺らでつなぎ止められる。


「だからさ、クロも言ってやってよ。Aのことが好きだから、家族だから、そばに居て欲しいから生きてて欲しいって。……言っとくけどA思ってる以上にポンコツだから、直接言わないと変に深読みして拗れるよ。

『生きてる価値』は多いほどいいからね。」


『生きてる価値』を与える。
そんな単純なことでいいなら、いくらでもやってやる。


「っ……ああ…何度でも、言ってやるよ……。お袋も、親父も…お前のことが大好きだって。」


家に着くまでに泣き腫れた目が治るかはわからない。

けど、時間も考えずに俺はひとり泣いた。


研磨は何も言わずに、俺ではなく、前を向いてくれていた。

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作者名:ドク | 作成日時:2022年8月5日 17時

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