天才じゃない40 ページ39
黒尾side
涙を必死に抑え、そして頑張って研磨に話しかける。
何故あの小説に気がついたのか。
「なぁ研磨、お前なんで気づいたんだ?」
「いつも俺読んでるからわかるんだけど…。
なんか、いつものAの小説よりすごく細かく書いてたし、過去形が多く使われてたから。それに直接的な心情が全く書かれてなかったし。
細かく書いたのは、『主人公は真実を伝えたかった』から。
過去形が多く使われてたのは『主人公はもう生きていない』と伝えたかったから。
直接的な心情を書かなかったのは『主人公はその心情を書いて、言い訳をしたくないだろうから』って。
他にも色々あったけどね。」
たくさん、考えた、か。
言われたショックも大きいはずなのに、言われた自分の苦しさより『言ってしまった相手の苦しさ』を考えるなんて。
俺は、Aの『優しい』が、初めて……。
俺が考えていると後ろの席から「なあ、黒尾。」とやっくんの声が聞こえた。
涙が零れそうな目を固く閉じながら「なんだよ。」と返す。
「もしかして、だけど…お前の妹、Aちゃんって…御録研次郎だったりする…?」
「……そうだけど。何?」
やっくんは「マジかよ…。」とため息のような声が聞こえた。
何か言いたげなその態度に苛つく。
「…文句でも言いてぇのかよ。」
「…いや、あの、だな……。」
研磨の目の色が変わる。
ごにょごにょと何も言わないその姿に舌打ちをすると、海が「落ち着いて。」と口を開く。
「俺が代わりに言うけど、夜久は………
…すごい、御録研次郎のファンなんだ。」
「「……は?」」
「なんっっっで!!言うんだよ!!海!!」
「いやぁ、言わないと拗れるかなって。」
真っ赤になるやっくんとそれを静かに笑う海を見て、それがマジだとわかった。
「…クラスメイト勧められて、『空の箱』読んでから……ハマった。文句あるかよっ!」
「思い出して急に泣いたしね。」
「海!!」
拗ねるように話すやっくんの顔は赤かった。
やっくんの口はAを褒めることばかり話していた。
Aの本を読んでくれて、こんなにも喜んでくれている人がいる。
楽しんでくれてる人がいる。
感動して、泣いてくれる人がいる。
その事実が、どうしても嬉しかった。
「黒尾の妹ほんとすっげぇな!『御録研次郎』も!『A』も!」
その言葉をその本人は聞いてはいないけれど、俺らは顔を合わせて笑いあった。
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作者名:ドク | 作成日時:2022年8月5日 17時