検索窓
今日:19 hit、昨日:12 hit、合計:39,547 hit

天才じゃない40 ページ39

黒尾side


涙を必死に抑え、そして頑張って研磨に話しかける。
何故あの小説に気がついたのか。


「なぁ研磨、お前なんで気づいたんだ?」

「いつも俺読んでるからわかるんだけど…。

なんか、いつものAの小説よりすごく細かく書いてたし、過去形が多く使われてたから。それに直接的な心情が全く書かれてなかったし。

細かく書いたのは、『主人公は真実を伝えたかった』から。

過去形が多く使われてたのは『主人公はもう生きていない』と伝えたかったから。

直接的な心情を書かなかったのは『主人公はその心情を書いて、言い訳をしたくないだろうから』って。

他にも色々あったけどね。」


たくさん、考えた、か。
言われたショックも大きいはずなのに、言われた自分の苦しさより『言ってしまった相手の苦しさ』を考えるなんて。


俺は、Aの『優しい』が、初めて……。



俺が考えていると後ろの席から「なあ、黒尾。」とやっくんの声が聞こえた。
涙が零れそうな目を固く閉じながら「なんだよ。」と返す。


「もしかして、だけど…お前の妹、Aちゃんって…御録研次郎だったりする…?」

「……そうだけど。何?」


やっくんは「マジかよ…。」とため息のような声が聞こえた。
何か言いたげなその態度に苛つく。


「…文句でも言いてぇのかよ。」

「…いや、あの、だな……。」


研磨の目の色が変わる。
ごにょごにょと何も言わないその姿に舌打ちをすると、海が「落ち着いて。」と口を開く。


「俺が代わりに言うけど、夜久は………


…すごい、御録研次郎のファンなんだ。」

「「……は?」」

「なんっっっで!!言うんだよ!!海!!」

「いやぁ、言わないと拗れるかなって。」


真っ赤になるやっくんとそれを静かに笑う海を見て、それがマジだとわかった。


「…クラスメイト勧められて、『空の箱』読んでから……ハマった。文句あるかよっ!」

「思い出して急に泣いたしね。」

「海!!」


拗ねるように話すやっくんの顔は赤かった。
やっくんの口はAを褒めることばかり話していた。


Aの本を読んでくれて、こんなにも喜んでくれている人がいる。

楽しんでくれてる人がいる。

感動して、泣いてくれる人がいる。



その事実が、どうしても嬉しかった。


「黒尾の妹ほんとすっげぇな!『御録研次郎』も!『A』も!」



その言葉をその本人は聞いてはいないけれど、俺らは顔を合わせて笑いあった。

天才じゃない41→←天才じゃない39



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (34 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
134人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:ドク | 作成日時:2022年8月5日 17時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。