天才じゃない39 ページ38
黒尾side
「じゃあ、ヒント。」とAが人差し指を立てる。
「なんであの本を『主人公は作った』と思う?」
「主人公が、作った?」
主人公が作ったって、何だ?
作ったのってAだろ。
わからない俺にAが話す。
「失敗ややってしまったことは誰だって隠したいと思う。
ならなんで、主人公はそれを物語にしたのか。
あの主人公、本当はいい人で優しい人なの。
ただ、色んなことに気づくのが『遅すぎた』。
ライバルのことも、自分の精神状態も、周囲との関係も、全部。
だからライバルが跳び降りしたって聞いて壊れてしまう。
何をするにも空元気で、全部に嘘ついて、自分の好きな部活も…最後には本当に何もしなくなって…。
そしてどうしようもならない現実に絶望して、自ら跳んで命を断つ。
それが主人公が本当に望んだものだから。
主人公は自分が言葉で殺してしまったライバルを親友だったから。
死んでしまったことを受け入れられなかったから。
受け入れたくなかったから。
主人公は、『謝りたかった』。
『ライバルからの許し』が欲しかった。
だからあの小説を書いた。
みんなに自分の行ったことを知ってもらって、裁かれたかった。
あの小説の本当の意味でのタイトルは、
『主人公の独白と懺悔』だよ。」
それは全て、俺がなっていたもので。
多分、Aが生きているってわからなかったら、俺もそのまま……物語のようになっていたと思うことで。
「私、鉄にぃに言われた時…すごく、言葉で表せないぐらい、ぐちゃぐちゃに、なった。目の前も、何にも見えないくらいに。
言われた人の気持ちは狂いそうなほど…わかった。だけど、『言ってしまった人の気持ち』は…わからなかった。
だから、一生懸命考えた。優しい人の…鉄にぃの…どうしようもない想いを…考えたの。」
困ったように笑うAは、誰よりも泣いているように見えた。
「だから、山本くんを、あの主人公と同じ道を歩ませたくなかったんだよ。」
「……A、そろそろ寝た方がいい。」
「…そう、だな。」
Aを抱き上げる。
するとAは「にゅぅ……。」と直ぐに眠りについた。
それは完全に『信頼されている』という証で。
「…見ら…れて、ねぇっ…よなっ……。」
「多分ね。」
俺の視界は完全にぼやけてしまい、Aの顔すら写すことはできなかった。
ただ、Aを震える手で、静かに撫でることしかできなかった。
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作者名:ドク | 作成日時:2022年8月5日 17時