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天才じゃない36 ページ35

黒尾side


「勝つことの難しさを知らねぇやつが外野から言ってんじゃねぇよ!!!」


それは絶対に『足のない』Aに言ってはいけない言葉で。
山本がAを掴みあげる。

その言葉にAが黙っているだけだった。


「山本っ!!!!」


俺の声に山本が自分の言ってしまった言葉、そして行動に驚く。
しかし手は離さなかった。
Aも何も動かず、黙っているままだった。

でもそれは足のない、『跳べない』Aにはどうしようもできない『事実』で。


「お前の気持ちは…わかった。

勝つ難しさは…私にはわかんねぇよ、足がないからもうみんなと同じバレーは出来ねぇからな。だからトレーニングの苦しさも、一生懸命に頑張ることもしたことねぇ。
私はスタートラインにすら立てない。

……みんなの、勝つ難しさなんて、わかるはずもねぇ。」


淡々と、話すAに視線が集まる。
山本が掴みあげたAを下ろそうとするも、その手をAが掴んだ。
まるで、『止めるな』と言っているように。


「悪いけどな、私は助かる人を見捨てて自分と同じようにするような奴じゃねぇんだよ。
山本。お前さっき言ったよな、『勝つことの難しさを知らねぇやつが外野から言ってんじゃねぇよ!!!』って。
じゃあ私も逆に言わせてもらう。


足を、身体の一部を失って生きてく辛さを知らねぇやつがまだ無事な身体をぶっ壊そうとしてんじゃねぇよ!!!」



その声は山本よりも小さいはずなのに、体育館中に響いた。

それがAの本当の心の叫びだって、わかったから。


「悪いけどな、私はここにいる全員よりずっと馬鹿だ!だからわからねぇよ!!

なんで目先の勝負にばっか目燃やして!これからの何十年もある人生を!これからできるだろう春高もインハイも全部捨ててまでやろうとする気持ちも!!
全部捨てようとしてんのとかマジでわかんねぇよ!!

勝ち方なんか知らねぇ!!難しさも全く知らねぇ!!そんなことやったことねぇ!!
山本たちの努力も!その過程も知らねぇからな!!

でもな、これからお前が苦労したり苦しむってことだけはわかんだよ!!!
後悔するってことだけはわかんだよ!!!

足を失ったからこそ!!お前がこれから苦しむことも!!辛くなることも!!悩むこともわかるんだよ!!

だからやめろ!!山本猛虎!!!」


Aは山本の腕を掴んだまま、山本を真っ直ぐに見つめていた。

山本はその言葉に、思いに、静かに涙を流した。

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作者名:ドク | 作成日時:2022年8月5日 17時

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