性別不明の歌い手は男性恐怖症でした。【さとみ君】

第６話 ページ8

「昔よりは、だいぶ軽くはなったんです・・・

　 昔は同じ空間にいるだけで、発作が起こってしまって・・・

　 今は、大丈夫なんです・・・けど、触られるのはきついかも、しれません。」

　 余程の過去があるのだろう。

　 思ったより重く、言葉が出なかった。

　「すみません、めんどくさいですよね・・・」

　 俺の沈黙が不安にさせてしまったのだろうか？

　 俺は慌てて言葉を発する。

　「大丈夫、少し驚いただけ。よく頑張ったね。」

　「え？」

　 鏡花は目を開いて驚いた。

　 え、俺何か言ったかな？

　「どうした？俺、何か言った？」

　「いや、まさかそう言ってもらえるなんて・・・」

　 よく頑張ったね、の事だろう。

　 予想外だったのだろうか？

　「そう？俺はよく頑張ったと思うよ。そんな辛い事があるのに、生きてるんだもん。」

　「・・・ありがとうございます。」

　 鏡花は泣き始めてしまった。

　 俺はすぐにでも抱きしめたかった。

　 けど、彼女は異性恐怖症。

　 俺がその行動に移せば、発作を起こしてしまう。

　 その代り、俺は自分のハンカチを差し出した。

　「あ、使う？」

　「・・・ありがとうございます。」

　 ハンカチが渡るとき、手が軽く触れたような気がした。

　

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