黒猫5 ページ7
コンコン、と夜も更けた頃に軽快なノック音が響いた。
私は書類処理の手を止め、どうぞ、と短く返事をする。
キィ、と小さく軋みながら扉がゆっくりと開くと、そこには見慣れない女がスっと背筋を伸ばして立っていた。
眉を顰めていると、その女はしなやかな声で語りだした。
「森鴎外殿、ご機嫌麗しゅう。お初にお目にかかります。私をお探しと云う噂を小耳に挟みましたので参上させて頂いた次第ですわ。」
首を少し傾けて妖しげに微笑むその女は、太宰くんと中也くんに捜索命令を出した「黒猫」だった。
いやしかしなるほど。
確かにその出で立ちはまるで黒猫のようにしなやかで妖艶で美しくて………不吉だ。
「よく来てくれたね。まぁ、かけたまえ。」
にこやかな笑みを取り繕い目の前の椅子に座るよう促すと、その女は音も立てずに椅子に近付きスっと座った。
「…で、私をお探しになった理由を聞きたいのですけれど。」
柔らかな口調で彼女は私に語りかける。
よもや彼女がマフィアの構成員を大量に仕留めたとは到底思えない雰囲気を纏っていた。
「なに、詰まらない用事だよ。君をマフィアに勧誘したくってね。」
「まァ驚いた。私をですか？」
彼女はおおよそ全く驚いていないような口調でコロコロと笑った。おおかた予想はついていたのだろうな。
「嗚呼、そうだ。構成員を手にかけた技術、双黒の二人を出し抜いたその手腕を見込んでね。是非ポートマフィアに加入してくれ」
女は金色の猫のような目を一、二度ぱちくりと瞬きをしてじっと此方を見つめていた。
まるで、肉食獣が獲物を品定めしているような目付きに不覚にも少し動揺してしまう。
「若し断ったら、如何？」
「君を殺す」
即座に放った私の言葉を耳にすると、彼女は満足気に顔を歪めた。
そして椅子から立ち上がり貴族令嬢の様にスカートの裾を指で摘んで軽くお辞儀をして彼女はドラマチックに話し出した。
「嗚呼、今宵私の
月が蒼く首領室を照らす。
今夜招き入れた女が吉と出るか、凶と出るか。
一つ云えるのは、ポートマフィアに敵対する組織にとって考えうる限り最悪の同盟が組まれたということ。
嗚呼、なんて素敵な夜。
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作者名：まるてん x他1人 | 作成日時：2018年8月2日 10時
