黒猫2 ページ4
声をあげたのは、舌なめずりをしながら彼女の首根っこを抑えて威嚇する、此の場に置いての救世主、『中原中也』。
____彼が格好付けるのは虫酸が走るけれど仕方ない。
最早此処は中也の独壇場なのだから。
「痛いわ。酷いことなさるのね。」
押さえつけられて動けない彼女は涼しげな声で中也に返答する。
然し、一気に形勢は逆転した事に間違いはない。
「おい、糞太宰。此奴如何すりゃいいんだ?」
「私達が有利なのは確かだが嫌な予感がする。しっかり抑えておいてくれ」
私の返答に舌打ちをしながらグッ、と力を込める中也。
…殺してしまわないか若干心配だ。
「中也、殺しちゃ駄目だよ」
「解ってんよ」
私たちのそんなやり取りを聞いて、彼女がふふふ、と笑いを響かせる。
厭な笑い声だ。頭が痛くなる。
「何が可笑しい?」
中也が威圧的に訊ねる。
「うふふ。いえ、だって、私を殺すとか…貴方達に出来る訳ありませんのに真剣に話していらっしゃるから可笑しくって…。若いっていいですわね」
彼女の口から零れたあまりに挑発的な言葉に私たちは一瞬言葉を失った。
我々双黒に捕えられた状況で此処まで云われたのは久方ぶりだ。
「…なぁに、君。面白いね。」
「手前、巫山戯てんのか?」
私達が何を云っても、彼女はくす々と笑っているだけだった。
其れがまた、少し癪に障る。
月が傾き出し、夜も明けようとしていた。
まだ周りは暗闇に包まれているが、其れでも『夜』は消えかけていた。
「嗚呼、夜も終幕を迎えそうですね。今宵は少し愉しませて頂きましたわ。ご機嫌よう」
くすりと笑ってから彼女は言葉通り私たちの前から姿を消した。
中也がきちんと押さえつけていたはずなのだけれど…
「…は?なんで彼奴…嘘だろ、俺結構きつく掴んでたぜ?」
「解ってる、君が首領命令で動いてるのに手を抜く訳が無い。…異能…か。」
徐々に登ってきた目が痛くなりそうな朝日に目を逸らしながら我々は立ちすくんでいた。
猫の鳴き声が、何処からか愉しげに響いていた朝だった。
『にゃあ』
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作者名:まるてん x他1人 | 作成日時:2018年8月2日 10時