黒猫21 ページ23
「其れが異能かい？」
「どれのことですの？」
「嫌、もう善い」
莫迦莫迦しくなりそうな予感がして、私は顔を顰めてる首を振った。
身代わりを創り出す異能か、いっそ治癒異能か、微妙に判断出来かねた。
ゆらゆらと揺れるレースのように、少し掴めない女だった。
「厭だわ、水臭いのね。もっとお話しましょう」
「ほら、こうやって適当に喋り出す。だから君とは話したくないのだよ」
「まぁ！酷い、私は治さんと話すの大好きですわよ」
にぃと笑って捲し立てる黒猫に嫌気がさす。
まともに言い合うだけ無駄な相手と分かっていながら、うっかり口を開いてしまう。
そういうスレスレのところで癇に障ることを口で転がす黒猫は矢張り面倒だった。
「あら！可愛らしい
男は返事の代わりに噎せて血を吐き出した。
黒猫はしゃがみ込んで男の頭を撫で、歌うように話した。
「鼠に噛まれてしまうなんて、猫失格ですわ。私の落ち度ですわね、銃の引き金を引ける賢い鼠だとは思いもよらなかったんですの」
「ひ……！す、済まない、俺が悪かった。ゆ、許せ」
「私は寛容ですのよ。勿論許します。愛らしい鼠は、噛み傷すら愛らしいですもの」
慈悲深い…ように見せかけた黒猫の笑顔は、流石と云わざるを得なかった。
三日月に細くなった瞳が、やけに優しく見える。
うっかりしていたら勘違いしてしまいそうなほど、慈しみに溢れていた。
「あ、ありがとう、ございます……」
男は安心したように力を抜いた。頭が悪いとは幸運な事だ。
逃がしてもらえる訳が無いことを、ちょっと考えれば分かる筈だが、間抜けな男は何も理解していない。
「そうだ、私の部下になりません？部下の印に綺麗なネクタイを差し上げますわよ、貴方は紅色が似合いそう」
「ぶ、部下？……もう何でも良い、頼むから助けてくれ、痛くて死にそうだ」
「あら、私としたことが。そうね、私の部下なら助けて差し上げなくちゃ」
うーん、と黒猫はよく回る口を動かして残念そうな声をあげる。何をするか分かってしまい、うげ、と零しながら二歩後ろに下がった。
「でも貴方醜男ですのね。矢張り部下はやめね」
そう云うや否や、返答させる隙もなく黒猫は短刀で男の首を掻き切った。
私が先程いた所にも無論鮮血は散っていた。
「綺麗な紅のネクタイね」
そう無邪気に笑う黒猫は無邪気で残酷だった。
続く (更新停止中)
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作者名：まるてん x他1人 | 作成日時：2018年8月2日 10時
