黒猫14 ページ16
「断る。」
自分でも驚く程の冷たい声が出た。
黒猫のせいでいくらか緩まっていた空気がぴしり、と凍りつくのが解る
「まぁ、何故ですの?如何して?何か特別な子なの?ねえねえ、何故?教えてくださいな、まああの治さんが手塩にかけた部下が私に懐いちゃったら困りますものね、いえそんな心配はいりませんのよ、私人には嫌われやすくって」
私が空気のように無視していると、本当に黒猫は一人でよく喋った。
苛々していた気持ちを越えて、呆れて口元を歪める
「本当、よく喋るね君は」
「弱い猫ほどよく吠える、ですわよ」
ね?と髪をクルクルと弄りながら微笑む。その無駄に謙遜めいた皮肉に青筋がたつ
このまま此処で喋り続けられるのも腹が立つ、というより本当に邪魔で仕方ない。
放っておいても好きなだけ1人で喋り続けてしまうのだ、もう無視のしようがない
「…一日。貸すのは一日だけだ。」
「まぁ!嬉しい、てっきりお気に入りは絶対に他人の手に委ねさせたりなんかしないと思っていましたわ」
「…用は済んだだろう?はやく帰りたまえ」
嗚呼、なんだかどっと疲れた。
結局、こうなることも分かっていたのに無駄にやり取りを重ねてしまったことが疲れの原因だろうな、なんて考える。
展開の予想はつくのに此奴のペースに乗せられがちだ、らしくない。
「そうですね、では明日お借りさせて頂きます。さぁ、そこの治さんに捨てられた捨て猫さんもいらして。あ、治さん下さるって仰いましたよね?一人でやりくりするの大変ですの。だから本当に貰いますけれど構いませんね?」
「嗚呼……もうなんでも善いから何処かに行ってくれ」
「うっふふ、嫌われたものですね、心地好い」
「気持ち悪いね」
ふふふ、と気味悪いくらいの猫撫で声で笑いながら黒服を一人連れ去る黒猫。
ふわりと広がっているスカァトの裾がフリフリと揺れている。
―――去っていく黒猫と黒服。その二人、いや黒猫にだけ微かな、ほんの少しの違和感。
再度目を凝らして違和感の正体を探るも、その違和感はもう無かった
「はぁ…ねえそこの君。机の上の珈琲を取ってくれたまえ」
ペースを少しでも乱されるのは、嗚呼、本当に疲れる
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作者名:まるてん x他1人 | 作成日時:2018年8月2日 10時