CASE.1-4『さらに一枚』 ページ6
お姉ちゃんの墓石を軽く手入れし、花を取り替える。
その間、特にこれといった話もしないにも関わらず、神崎くんはこの場から離れようとしない。
一通り用事を済ませた後、彼の方をちらりと窺えば、翠玉のようなその瞳と一瞬目が合う。
しかしそれはすぐ、彼が微笑むことによって見えなくなった。
「終わった？」
『終わったけど……まだなにか用？』
あぁ、やだな。
この流れ、もう仕事に関する話を切り込んでくるほかない。
別に一般人相手だとしたら、これくらいの状況はどうってことはない。そう、一般人ならね。
だけど相手は
「うん♪この後なんだけど、少しだけ付き合ってくれないかな？」
よりにもよって、随分と頭のキレる男。
「そんなに嫌そうな顔をされると、さすがに悲しいな……」
『用件の検討がついてしまうからよ、仕方ないでしょ。はぁ……』
思わず感情が表情にまで漏れていたようだ。
特に隠す気もなくそう返事をすると、私は深いため息をついた。
「さっすがAちゃん、僕の考えがもう読めてるんだね」
そうにこにこと笑うこの男の発言は、明らかに分かっていたような口調ぶり。
こうなってくるともう何もかもが胡散臭い。その笑みさえも。
『あーしらじらしい。どうせこのあたりまで読まれることくらいはわかってたんでしょ』
「まぁね♪」
即答だし……。
まぁ読まれようが何を言われようが、現実も結果も変わらないし、変えるつもりもないんだけど。
「それから」
『？』
あとを追うように出た彼の言葉は予想外で、少し不思議に思いながら耳を傾ける。
真剣な面持ちになった彼の瞳と、再び目が合った。
「君が僕の申し出を断ることもわかってる。でもこれは、お願いでも頼みでもない。」
「さすがに僕も、そんなことで君の元につけるとは思ってないからね。だから今から言うことは、色々考えたうえでの提案なんだけど……」
そう言うなり神崎くんは眉を下げ、見たことないような、よくわからない表情をした。
彼が紡ぎ出す言葉を待つ。なんとなく、ふと胸騒ぎがした。
「Aちゃん、
＿＿＿僕の彼女になってくれない？」
『……は！？』
前略、アサヒ姉。私は混乱しています。
こんなに訳の分からない発言は初めてです。
良くも悪くも貴女の部下は、私よりもさらに一枚うわてなのかもしれません。
"面白いでしょ"
そんな声が、どこかで聞こえたような気がした。
*
CASE.1-5「変わり者同志」→←CASE.1-3「似て非なり｣
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 23人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
Lito(プロフ) - 神作品に出会ってしまった…更新待ってます！続きをお恵みください……！！！ (2022年1月31日 17時) (
レス) @page8 id: d0534e1594 (このIDを非表示/違反報告)
ぽぴら(プロフ) - 神無雪。/くろめも@元uruhuさんさん» コメントありがとうございます。わかります〜;;そんな風に言っていただけて嬉しいです！頑張って完成させたいと思いますので、これからよろしくお願いします……！ (2020年11月13日 12時) (レス) id: d4ba406946 (このIDを非表示/違反報告)
神無雪。/くろめも@元uruhuさん(プロフ) - 神崎ソウシロウさんの作品ちょっと少ないので読んでて楽しいです (2020年11月13日 6時) (レス) id: 18e59d97df (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ぽぴら | 作成日時：2020年11月13日 4時
