8話 ページ10
ドライヤーで髪を乾かしてもらっている間、Aの手つきはとても優しかった。ちょっとくすぐったかったけど。
「………何これ?」
Aが色々ボトルを持ってきて、テーブルに並べる。
「肌のケアに使う奴。クリームとかローションとか色々」
男だった時には全然縁のなかった化粧品を、使う日が来るとは思わなかった。…そういえば、エマも昔沢山化粧品を持ってたな。
「………エマも、こういうのいっぱい持ってた」
思わず、口にしていた。案の定、Aは一瞬だけ動揺した。
「………辛いこと、思い出させちゃったか?」
心底すまないという顔で、Aは俺の方を覗き込む。また、自分の頬が熱くなるのを感じた。確実にAは、昔より色気が増したと思う。
「ん、大丈夫。…でさ、これどうやって使うの?」
結局保湿クリームを塗ってもらった。俺にとって化粧品は未知数だったけど、感触は悪くない。
それからAはどこからか、おっきなピンクの球のようなキャラのぬいぐるみを持ってきた。そしてそれを、俺に渡してきた。
「とりあえず抱いてみな。気持ちも落ち着くはずだから…さ」
流石に照れているようだ。結構ポップなのが好みなんだろうか。…とりあえず可愛い。
勧められるままに、でっかいぬいぐるみを抱いてみる。信じられないぐらい柔らかい。確かにこれは、今の俺には必要な物かもしれない…
「じゃあ俺、シャワー浴びてくるから。何食べたいとかあったら、考えといてな」
「…んー」
いつまで、こんな穏やかな時間が続くだろうか。
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作者名:米グルイ | 作成日時:2022年8月22日 22時