第百四十捌訓 ページ22
深い深い、静かな夜だった。宝石の欠片のように散りばめられた星に曇りなく輝く月。そんな空を見ているとゆっくりと足音が聞こえた。
貴方「総悟」
沖田「Aさん」
近付いてくる沖田の頭を気付けばAはそっと腕を伸ばして優しく撫でていた。
沖田「?、どうしたんでぃ」
貴方「…別に」
何も言わず撫でる手を戻した彼女に沖田が続けた。
沖田「眠れないんですかぃ」
貴方「いや、もう寝るよ。お前こそ眠れないのか。こんな遅くまで」
部屋に戻ろうとするAに今度は沖田が腕を伸ばした。
沖田「…そうですね」
貴方「っ!」
パタン、と部屋の扉が閉まった音がして、前を見れば沖田の胸の中だった。
沖田「アンタのことを思うと、眠れねェ」
貴方「……」
沖田「また何か隠してるんじゃないんですかぃ。ほんと、なんでも1人で背負い込んで」
沖田は知っている。こうして口数が少なくなって、目を合わせようとしなくなる彼女の行動を。
沖田「…どこにも、どこにも行かねぇでくだせぇ…」
震える腕に力を込める。またどこかに行ってしまいそうな彼女が怖くて、不安で、寂しくて例えようのない何かに駆られてしまう。だから、こうして自分の腕の中に閉じ込めておきたくて。
沖田「俺は、アンタのそばにいたい」
ずっとずっと、そばにいたい。目を見開いて俺を見る彼女の瞳は揺れていた。
"…総悟”そう俺の名前を呼ぶ度に1人でバレないように高鳴る鼓動を抑えるのに必死で。こんなに、こんなにも愛おしいと思うのは初めてだからどうしたらいいのか分からない。
ただ、そばにいて、俺のことをずっと見ていてほしい。それだけなんだ。それだけで十分で。その口で、声で、一言だけ。好きだと、言ってほしい。欲を言うのなら、永遠にそばにいて触れていたいんだ。
沖田「好きだ。…アンタが、Aさんのことが、好きなんでぃ…」
貴方「…すまない。そういうのはまだ…」
小さな声で答えた彼女に、負けじと顔を近づけて言った。
沖田「…分からないなら教えてあげやすぜ」
貴方「何言っ…っ、!」
言葉を紡ぐ前に押し付けるように唇を塞いだ。
沖田「…俺のこと、好きになって」
──頼む…。
そう切願するように優しくも、強く、強く唇を重ねた。分かっていた。なんとなく、アンタの心に響くものは俺じゃないんだって。だからこんなに必死なんだ、俺って。カッコ悪ィ。
願うこととは裏腹に、彼女に触れた唇がひどく温かく感じた。それが一層、俺に現実を突き付けた。
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尾っぽ(プロフ) - 美恵子さん» ありがとうございます!! (2022年7月28日 17時) (レス) id: 96e7b68837 (このIDを非表示/違反報告)
美恵子(プロフ) - すっごくおもしろいです!!! (2022年7月2日 11時) (レス) id: 12d04b5d59 (このIDを非表示/違反報告)
尾っぽ(プロフ) - たろ。さん» めちゃくちゃ嬉しいです…私も嬉し泣きしちゃう…更新頑張りますね! (2022年3月24日 12時) (レス) id: 469c01063a (このIDを非表示/違反報告)
尾っぽ(プロフ) - 紫姫さん» ありがとうございます!イラストに興味がありましたらTwitter垢作ろうか悩んでるのでたぶん今後そちらにあげていきます!笑 (2022年3月24日 12時) (レス) id: 469c01063a (このIDを非表示/違反報告)
たろ。(プロフ) - 泣いたり笑ったり忙しいな。めちゃくちゃ面白くて一気読みしました。更新楽しみにしてます (2022年3月11日 2時) (レス) @page44 id: ba071d904f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:尾っぽ | 作成日時:2017年8月21日 1時