見せない涙 (ページ9)

今日:20 hit、昨日:7 hit、合計:5,205 hit

手を引く者ページ9

不適な笑みを浮かべるカインへ兵士達は思わず黙りながらではあるものの返事をしてしまう。

「は、はい……っ」
「カイン、何度言えば分かる！此処いる兵はお前の部下では無い！命令は私が出す！」

兵士達がカインの言う事を聞くのが気に入らないと言う様に、ドラモンドはカインへ向けて怒号を浴びせる。

「細かいな……」
「お前が大雑把なんだ！そんなんだから騎士団長の座を追われたりするんだ！」
「分かった、分かった！何だって良い。早くしてくれ。どうぞ、閣下」
「ゴホン……。ものども、かかれ！」
「うおおお……っ」

声を上げて兵士達が一斉にカインへ襲い掛かる。しかし、カインは余裕気な表情で、がむしゃらで襲う兵士達の刃をひらりと交わす。そして、圧倒的な力で兵士達を次々へ倒して行く。私は、じっとカインの戦い振りを食い入る様に見て居た。そんな時、誰かの手が私の腕を優しく引いた。ひんやりとした冷たい指。

「……」
「？」
「あ……。東の国の魔法使い。ヒースクリフです。ついて来て下さい」

吃り気味に自己紹介をした彼の表情をじっと見詰める。随分と顔色が悪い様に見える。

「……」

ヒースクリフは私の視線から逃れる様に顔を俯かせる。

「こっちへ」

優しく腕を引かれながら、私は乱闘となってしまった場所から離れて薄暗い階段へ向かう。

「……」

階段の半ばで、私は彼の腕を優しく引っ張った。

「？」

腕を引っ張ららた事により、ヒースクリフが此方へ振り返る。やっぱり、余り顔色が良く無い。それは、ヒースクリフだけでは無く、上で兵士達と戦っているカインにも言える事だった。

『ねえ、大丈夫？さっきから顔色が余り……』

『よく無い』続けようとした時、不意にヒースクリフかよろめく。私は、表情には出さないが慌てて彼の背を支える。額を抑えて苦し気な様子で肩で息をしている。

「……すいません……。もう、ほとんど魔力が残って無いんです」

弱々しい声音からは痛々しさを感じる。

「『大いなる厄災』との戦いを終えたばかりで……。カインだって、限界……」
「逃がすな！捕まえろ！」
「……っ」

階段の上から私達を見つけた兵士達が追いかけて来る。ヒースクリフは、未だ震える足で立ち上がると。優しく私の手を引き、急いで階段を降りようとした。しかし、残酷な事に階段の下からも兵士達が押し寄せて来た。

「挟み撃ちだ！これなら逃げられないだろう！」
「……大丈夫です。賢者様。俺がお守りします」