見せない涙 (ページ5)

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あなたと友人になれたらページ5

カタン、コトンと何かの物音で目が覚める。此の音は……。私は寝そべっていた身体を起こし辺りを見渡す。見覚えのない空間。此処は何処だろう。寝惚けた頭を必死で覚醒させ様と思考回路を張り巡らせるが上手く回らず。何も理解しないまま、強く襲う眠気に抗う事もせず深い微睡の中へ旅立とうとした時。

「やあ」
「......？」

突然聞こえてきた男の声で少しだけ目が覚めて、目を見開けば。最初の視界に映り込んだのは、人間の姿では無く宙を浮く帽子。

「ようこそ、賢者様。エレベーターの行き先は、私が案内致しましょう」

『賢者……？』聞き馴染みの無い単語に私は寝惚けたまま、首を傾げた。

「私は、西の魔法使いのムル。行き先は『大いなる厄災』によって、壊れかけた世界」

ムルと名乗った素敵な帽子は、未だぼんやりとした蓮を置いてけぼりで話を続ける。そして、一通り話し終えた後、のらりくらりと帽子の下から姿を表した。しかし蓮は特別驚いた様子は見られず、相変わらずムルをじっと見詰めていた。
　
「お会い出来て光栄です。愛しい賢者様」

優しく微笑みを浮かべるムルへ対して。蓮は『あ、此れ絶対面倒くさい事に巻き込まれる奴だ』嫌な予感を感じていた。

「此れから賢者様を少しばかり厄介なことに巻き込むかもしれません。さて、厄介事には色々あります。色恋沙汰、名誉に戦争、家族、友人、仕返し、恩返し......。今回は、その中でも最も厄介な問題！世界救済。貴女にその手伝いをして欲しいのです」

所々疑問を持つ所はあるけれども、一つだけ確信があるとすれば、目の前の彼が嘘を吐いては居ない事だけ。それと後もう一つ。何故、彼の彼の魂が彼方此方にバラバラに砕け散って居るのか。疑問に思うが初対面で聞くのは無粋な様な気がして、口にする事は無かった。

「本音を言えば、世界はどうでもいいのです。人助けは面倒ですからね。ただ......」
「……？」

ムルは一度だけ悲しげな表情を浮かべて目を伏せる。

「この世界の真実を貴女に見つけてほしい」

ムルは儚げな笑みを浮かべた後、蓮への頬へ優しく口付けを落とす。

「また後程、お会い致しましょう」
　
英国紳士見たくお辞儀をした後、蓮の前から静かに姿を消した。そして、止まっていた筈のエレベーターが動き始め、最上階まで辿り着いたエレベーターは音を立てて静かに止まった。

「世界も私も随分と滅茶苦茶になってしまいましたけど。貴女はきっと私に失望するでしょう。それでも、貴女と友人になれたら嬉しい。聡明な賢者様.....。私はずっと貴女にお会いする事を待ち望んでいた。縁様......どうぞみんなの事をよろしくお願いします」