色をなくした世界 (ページ35)

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天井裏から小枝が折れるような騒音が小さく聞こえてきた。ジョンも気づいてはいるのか、げんに聖書を読みながらも当たりを見渡していた。

「……」

天井……天井になにが……。そこまで、考えて私はイスから勢いよく立ち上がり。急いでベースからジョンの元へ向かう。

「おい、嬢ちゃん！？」

滝川の声が聞こえてくるが構ってはいられなかった。あれは、ラップ音なんかじゃない。モニターに映っていたのは、崩れ落ちそうな天井のその音だった。

『ジョン！危ないから、そこを早く出て！』
「蓮ちゃん？」

教室のドアを勢いよく開ければ、驚いたようにジョンがこちらへ振り返る。

『とにかく、早く出て……ここは』

『危険』そう紡ぎかけたとき。パシッと板が裂ける嫌な音が聞こえてきた。やばい、崩れ落ちる。そう直感で感じ取った直後。激しい地響きと頭上から激しく物が落ちてくる気配。どっと土埃が上がり、凄まじい音を鳴り響かせながら天井は崩れ落ちた。

＊

ハンディライトが暗くなった教室の中を照らす。教室の中央には、さきほど崩れ落ちた角材などで瓦礫の山ができていた。

「……なんてこった」
「蓮さんが、声をかけてくれへんかったら危なかったです」

ジョンの声は少しだけ恐怖で震えていた。無理もない。もし誰も気づかず、あの場所で今も除霊を続けていれば。今ごろ、ジョンはあの瓦礫の下だった。

「……今夜は、引いたほうがいいかもしれないな」

ナルは、折れた角材の一つを見つめながら、そう告げた。

「蓮。帰っていいぞ」
『わかりました』
「そーね。アタシも帰らせてもらうわ。命あってのモノダネよ」
「正直にビビったっていえよ」
「ボクも……ご忠告に従って、今日のところは帰らせてもらいますです」

あれだけ、人の指示を嫌う人たちがナルの判断を否定することなく。それぞれが旧校舎へとどまることが危険と判断をして、帰った。しかし、ナルだけは調べ物があるとかで、この旧校舎で、ただ一人残った。