＊ ページ11
「こんな奴が、何処で野垂れ死んだって。いや、いっそ。喰われて、死んだ方が……」
膝を抱えて、口から出る言葉は自信を卑下する事ばかり。
「……」
太宰は、蓮の頭を撫でて居た手を止めて、頭上まで上がっていた美しい満月へ視線を向ける。
「却説……そろそろかな」
太宰のその言葉を最後に、今まで静かだった筈の倉庫から物音が鳴り響く。
「今……そこで物音が！」
「そうだね」
「きっと、奴ですよ。太宰さん！」
「風で何か落ちたんだろう」
「ひ、人食い虎だ。僕を喰いに来たんだ」
疑心暗鬼に落ち入り、見えない存在へ怯える。
「座りたまえよ。敦君。虎は、あんな処からは来ない」
「ど、どうして、判るんです！」
「そもそも、変なんだよ。敦君。経営が傾いたからって、養護施設が児童を追放するかい？ 大昔の農村じゃないんだ。いや、そもそも経営が傾いたんなら、一人二人を追放した処でどうにもならない。半分くらい減らして他所の施設に移すのが筋だ」
「太宰さん。何を云って……」
太宰の方へ視線を向けようとした時、敦の視界に映り込む。大きな美しい満月が。自身と同色の色を持ち、あの虎の瞳と同じ色でもある黄金。
「君が街に来たのが2週間前。虎が街に現れたのも、2週間前。君が、鶴見川べりに居たのが4日前。同じ場所で虎が目撃されたのも4日前。国木田君が云っていただろう。『武装探偵社』は、能力の力を持つ輩の寄り合いだと。巷間には知られていないが、この世には異能の者が少なからず居る。その力で成功する者も居れば……力を制御できず身を滅ぼす者も居る。大方、施設の人は虎の正体を知っていたが、君には教えなかっただろう。君だけが解っていなかったのだよ。君も『異能の者』だ。現身に飢獣を降ろす月下の能力者……」
太宰の目の前には、見知った少年の姿は無い。居るのは、虎に姿を変えた敦のみ。虎は、身を震わせる様な唸り声を上げると太宰へ力強く前足を振り上げた。
「こりゃ、凄い力だ。人の首をくらい簡単に圧し折れる」
未だ、この騒動であろうとも眠っている蓮を抱えながらも太宰は、身軽に虎の攻撃を避ける。
「おっと」
壁へ追い詰められて逃げる道を塞がれる。すぐ目の前まで虎が迫って来ているのにも関わらず。太宰は、動揺する事もせず淡々と敦へ視線を注いで居た。
「獣に喰い殺される最期というのも中々悪くないが。君では、私を殺せない」
自身へ真っ直ぐ飛び込んでくる敦の頭へ手を置く。
「私の能力は……あらゆる他の能力を触れただけで無効化する」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 52人がお気に入り
お気に入り作者に追加
「文豪ストレイドッグス」関連の作品
この作品が参加のイベント ( イベント作成 )
この作品が参加のイベント 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
クジラ大好きマン(プロフ) - くらげさん» コメント有難う御座います。拙い文章力ではありますが、褒めて下さり有難う御座います。 (7月29日 20時) (
レス) id: 774fe7f9f6 (このIDを非表示/違反報告)
くらげ - 文章が非常にきれいで非常に読むのが楽しかったです。更新楽しみにさせていただきます。暑い日が続いておりますが、どうか御自愛ください。 (7月29日 16時) (レス) @page7 id: fa8f980323 (このIDを非表示/違反報告)
クジラ大好きマン(プロフ) - 七星 麗華＠???，??，??さん» イベント参加させて頂きありがとうございます。作品を褒めて頂き有難う御座います！ (7月25日 19時) (レス) id: 774fe7f9f6 (このIDを非表示/違反報告)
七星 麗華＠???,??,??(プロフ) - イベント参加ありがとうございます！設定からもう神ですね…更新楽しみにしています！体調にはお気をつけてください！ (7月25日 19時) (レス) @page3 id: 50853c9852 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：クジラ大好きマン | 作成日時：2023年7月23日 23時
