壊れていたのは…… (ページ9)

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兄に拾われた当初は、あんな幸せな絵を描くような家族だった。兄も母や父に手を繋がれながらも幸せに笑って居た。けれど、いつからか……。ピシィとフロントガラスが割れる音が耳に響き渡る。無数の亀裂が走って、隙間から入り込む水。私は、慌てて逃げ込む事はせずに、そっと水に身を任せる。大量の水で車内が沈む中、あの子もこんな気持ちだったのかな……と。そっと瞼を閉じた時、スマホの着信音ではっと覚醒する。そっと、着信音が鳴り響く方へ視線を向ければ、先程乗って居た乗客のスマホが後部座席へ落ちて居た。

「……」

忘れ物が無いようにって言ったのに。私は、乗客のスマホを手に取って、後は自身のスマホを手に取った。そして、私は自身の作った自分だけの専用のアプリを開いて、着信ボタンを開いた。

「はい」
「うわっ。運転手さん、話せたんだ」

驚いた声がスマホ越しから聞こえてくる。それも、そうだろう。このアプリは、私の気持ちを汲み取り私の代わりに会話してくれる代物。驚くのも無理はない。けれども。

「うわって何？うわって」
「ごめん、ごめん。さっきは筆談で話してた運転手さんが急に話し始めたから驚いちゃって……」
「……」
「ごめんって。それよりもさ、ごめん。ケータイ忘れた！戻ってきて」
「忘れ物には気を付けてって言ったけど……」
「ごめん、ごめん。もうしかして、寝てた？」
「……別に」
「ねえ。さっきのツイートバズってる？」
「……」

勝手に人のスマホを触るのは気が引けるが聞かれた以上はと思いながら、彼のスマホのsnsを開くと沢山のいいね等がされて居た。

「なんか、通知鳴り止まないよ」
「マジで！？バズってんじゃん！」

私と乗客のツーショットに映り込む、見覚えのあるゲラダヒヒの姿。此れは……面倒くさい事になりそうだ。

「今どこ？降ろした所？分かった。公衆電話の側ね。ちょっと待ってて」

其所からは慣れない様にと乗客へ告げてから通話を切る。そして、溜息を一つ溢す。

「……まったく。めんどくさいな」

誰も居ない車内に、美しく玲瓏な声音が響き渡った。