壊れていたのは…… (ページ8)

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「……」

先程と同じく沈黙が続く車内。

「……えー……。タイムオーバーだわ」

乗客の乾いた笑い声が響き渡る。其処からは目的地に辿り着くまで、乗客との間に会話は無かった。そして、辿り着いた目的地。私は、回した分のメーターの金額を乗客へ告げる。

「はい。5610円。丁度」
「はい、ありがとう。忘れ物無いようにね」

乗せて居た乗客と別れを告げて、乗客が降りた事を確認してから、私は車を発進させた。先程まで乗客の要望で消して居たラジオを付け直して、ラジオの方へ耳を傾ける。

『今年、あかんかったら解散や』
『マジで言うてるんですか。柴垣さん』

片方が一方的に言い争うコンビに、余り面白くなさを感じて。私は、ラジオのチャンネルを切り替える。東京都の天気予報を告げるチャンネルも切り替えて、結局はニュースが流れるラジオに行き着く。

『練馬区の女子高校生が行方不明になっている事件で、家族が携帯電話に掛けても繋がらず、現場も連絡が取れない状態が続いており……警察は女子高校生が何らかのトラブルに巻き込まれた可能性があるとして調査を進めています』

練馬で女子高校生の失踪事件。ニュースから流れる物騒な事件に、少し引っ掛かりを覚えたが失踪事件が多い世の中だ。なんの不思議な事もない。勝手に自己完結をする。私は、道路の左端に車を停めて目元を抑える。

「……」

練馬の女子高校生失踪事件。失踪の多い世の中だから何ら不思議な事は無い。けれども、先程から何か引っ掛かる。何が、引っ掛かると考えても頭が霞んでモヤかかる。本当に、今日の私はどうしたんだろう。考え込んでいた時、窓を叩く音が聞こえてくる。

「……」

音が聞こえる方へ視線を向ければ、窓越しから映り込む仲の良い家族連れの3人組。

「あのー。今、乗れますか？」
「もう、帰るー！」
「もうちょっと、待ってねー」

帰りたいと駄々を捏ねる子供を優しく宥める父親と二人を優しく見守る母親の姿。ゴボと水面へ沈む音が頭を掠める。

「あのー。あのっ！」
「……はい？」
「え？だから、乗車……」
「ねえ。もう、いいよ。なんか変だし。他探そう」
「あ、うん」

私を可笑しく思った夫婦は、子供を連れてタクシーから離れて、お互いが子供と手を繋ぎながら歩き始めた。

「動物園楽しかったねー！」
「また、行きたい？」
「次は、車で行こうよ！」
「えー」

無邪気な子供に、苦笑いを浮かべながら仲良く手を繋ぐ家族連れを蓮は、一人黙って見詰める。また、ゴボと水面へ沈む音が脳を掠める。