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「……そっか。タクシードライバーだもんね」
「……メーターは回さないよ」

それだけを告げて、酷いかも知れないが私は白川さんを置いて、一人先にタクシーに戻った。


久方振りにやって来た、タエ子が経営する居酒屋やまびこ。扉を開けて中に入れば、何時も通りの見慣れた顔が視界へ映り込む。

「お!」
「あら!」
「蓮〜!」

嬉しそうな表情を浮かべる柿花とタエ子に軽く頭を下げて会釈し、カウンター席の柿花の隣の席へ腰を下ろす。

「蓮ちゃん、何頼む?」

席へ座るや否や注文を聞いてくるタエ子へ「カルピス一つと後は適当に……」伝えれば、タエ子は笑顔で嫌な顔せず二つ返事で頷いてくれた。タエ子が飲み物をを用意してくれて居る間、柿花と蓮は下らない会話をして居た。

「なあ! どうなんだよ、最近! 白川さんとは!」

いつも以上に鬱陶しく絡む柿花を尻目で、タエ子から渡された飲み物を受け取りながら「別に特に」素っ気なく返す。

「前回から好き度はアップした?」
「木星くらい」
「かなりじゃねーか。恋ってさ……切なくもあり、美しくもあるよな……」
「……恋してるの?」
「俺さ、高校の時はそこそこモテたじゃん」

確かに、高校の頃の柿花は結構モテて居た。野球部だったし、若い頃は、それなりに顔も整って居たと思う。

「野球やってたしね」
「でも社会に出るとさ、見た目とか仕事が出来るとか出来ないとか、厳しいじゃん。やっぱ、年と共にそういうの諦めつつあったんだけどさ……ようやく春が来そうなんだ」

お酒で赤く染まった頬と目尻を下げて儚げな表情で笑う。

「……へぇ。良かったね」
「前も言ったけどさ、マジで俺らのスペック婚活市場じゃ需要なしだぜ! 全然相手は見たからねーの」
「だから、分かんないの。28歳のナースが何故、私?って」
「そりゃ、スペックをも凌駕するフィーリングまたやつさ。それに、お前ってかなり綺麗な顔立ちしてるし」

紙ナプキンを折り紙にしてアルパカを折る蓮をテーブルに肘を付いて、彼女の横顔を見詰める。帽子で深く隠れては居るが、近くで見れば、横顔であろうとも分かる。筋のとおった高い鼻とぷっくりとした蠱惑的な小さな赤い桜唇。本当、羨ましい程の綺麗な顔立ちだ。

「……さっきは、木星って言ったけど。自分でも良く分からない。好きとか恋とか。諦める以前に自分とは関係ないものだと思ってたから。とにかく、自信はない」

普段は無口で無表情の蓮が、珍しく今日は饒舌だ。さっきは、素っ気なく否定して居たが白川さんと何かがあったに違い無い。

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作者名:クジラ大好きマン | 作成日時:2023年6月11日 23時

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