壊れていたのは…… (ページ20)

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「ファンの子と協力してゲーム出来るからええねん」
「そんなんやってる暇あったらネタ書け！てか、ファンの子と交流とか例の彼女、そういうの平気なん？」

相方の口から出された''彼女''と言う単語を聞いて、大袈裟なくらい身体を揺らす。それを見た相方は冷めた視線で馬場を見詰めた。

「どうなん、最近。その彼女とは」
「……こんな所で言えるわけないやろ」
「自意識過剰も大概にせーよ。俺らの知名度、定期預金の金利くらいやぞ」
「彼女の方が今後、苦ーいチョコのカカオくらいの知名度を手に入れる可能性あるから……」

突っかかる相方を諭す馬場。これ以上、車内の雰囲気が悪くならない様、私は二人へ声を掛ける。

「知ってるよ。ホモサピエンスでしょ。何時もラジオで聞いてるよ」
「マジっすか！」
「顔は知らなかったけど、声で分かった」
「そこやねんな！運転手さん、俺らどうやったら売れると思います？」
「さあー。運じゃ無いの？」
「そんなんあったら苦労しませんやん。俺ら天下獲りたいんすわ」
「……」

この猪は本気で売れる事を望んでいるし本気でお笑いに賭けてる。けれども、馬の方の相方は、どちらかと言うと。其処まで考えて、誰かの着信音で思考回路が停止する。

「あ……マネージャーや」

どうやら着信の正体はホモサピのマネージャーからの様だ。馬場は、一度私に断りを入れてから通話に出る。

「もしもし。あ、もうスタジオ着きます。はい、タクシーです。あ？ああ、隣居ますけど……え？明日？僕ですか？別に大丈夫ですけど……はい。はい……失礼します」

マネージャーとの通話を切って、馬場は一つ溜息を吐いて重苦しく口を開く。

「レギュラー決まったって」
「嘘やん！なんの？」
「昼間のグルメロケみたいなやつやけど」
「全然ええよ！やっ……」
「俺だけ」

喜ぶ猪の相方へ自分だけがレギュラーが決まった事を気まずげな表情を浮かべて伝える。先程の不穏か空気が更に不穏となり、車内が凍りつく。其処からはお互いが目的地に着くまで一言も喋らず、二人は下車した。下車して歩いて行く二人の背中を見詰めながら、先程の猪の言葉を考える。

「どうやったら売れるか……」

あの二人が一緒になって売れるのは今の所は不可能に近い。猪のな方は売れる事を本気で賭けているがエゴイストが過ぎる。売れる事だけしか考えてない。馬場と呼ばれた方は、何と言うか本気になっていない。二人の間には温度差があり過ぎる。其処を取り除くまでは売れる事は……。