＊ ページ12
「私が……？」
「とりあえず、録画データはこちらで預かる。押収ってやつだ。なんかあったら、また捜査に協力して貰う。ただし……警察には行くな」
「もし、行ったら？」
「分かんないけど、拳銃を持った指名手配班が蓮を殺すんじゃない？」
指を拳銃に見立てて私の眉間に指を差す。そして、弟と比べて目付きが悪いながらも今度は優しく笑うと優しい手付きで私の頭を撫でた。
「最近は、変な奴が多いから気を付けろよ。なんか、あったら俺に、直ぐ電話しろよ」
最後に昨夜と同じく同じ場所にキスを落とすと「じゃあな」一言だけ告げて、録画データを持ったまま去って居た。私は、ジンジンと熱くなっている耳を押さえながら、力無く運転先へ座り込
む。
「毎回、会う度に耳にキスするのは勘弁して欲しい」
ハンドルに頭を預けながら柔らかい大門兄の唇を思い出して、また熱くなる耳を暫く熱が引くまで待った。
＊
激しい雨が降り注ぐ月夜のない晩に、いつも通り営業をしている居酒屋やまびこ。カウンター席には、居酒屋を営む女将事、カンガルーのタエ子とやまびこの常連客であるシロテナガザルの柿花が、退屈そうにスマホを扱って居た。
「……」
マッチ婚活アプリと書かれた画面を開き、プロフィール欄の項目の一つである年収の金額を書いては消して、大きな溜息を一つ溢す。そして、カウンター内で揚げ物を揚げているタエ子ママへ一つ愚痴を溢した。
「最近、腰が痛くてさあ〜」
「あら、大丈夫なの？ 清掃のお仕事」
「俺なんか居なくても現場は回るんだよ。社会から見れば、俺は
掃除される側さ……雇う方からしてもさ、俺みたいなのより若い方が良いだろうしさ、休んだって誰も何も言わないんだよ」
「あはは」
「いや、笑うとこじゃ無くて」
「違うの？」
「フォローしないと」
真面目な話で愚痴った筈が何時も通り揶揄われる始末。笑うタエ子を柿花は怒る事はせず逆にタエ子の乗りに乗って鋭い突っ込みを入れる。お互いが楽しくやり取りをしながら話していると、ガララと引き戸の扉が開く音が聞こえて来た。
「あら先生、疲れ様」
「ああ」
店に入って来たのは、これまた此処の居酒屋の常連客の一人である剛力だった。剛力は被って居たハットを脱いで、自身が座るカウンターテーブルへハットを置くと柿花の隣へ腰掛けた。
「体調はどうだ。柿花」
「腰以外は悪くないよ。剛力先生のお陰でね」
「蓮には、ヤブって言われたけどな」
「ハハハ」
「蓮ちゃん、言いそう〜」
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作者名：クジラ大好きマン | 作成日時：2023年6月11日 23時
