ロンリーオンリーパラダイス ２〈完結〉

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身支度を済ませて、熱いコーヒーをステンレスの水筒に入れて持って行くことにした。

「俺読みかけの本持って行こっと」

「じゃあ私ブランケット」

外に出ると、思ったより空気は冷たくなくて、日差しは暖かかった。

「あー冬も終わりだな」

「うん、もうすぐ春だね」

にこって笑った藤ヶ谷くんが、ポケットに入れていた手を出して、ごく自然に繋いできた。

藤ヶ谷くんの手はきれいだけど、ちゃんと男っぽい。


パン屋さんは、焼き立てのパンのいい香りでいっぱいだった。

「クロワッサンと、メロンパンと、あ、しらすと玉ねぎのパンだって。美味しそう。これも買おう」

「Aさんてあんまり迷わないよね、何でも。即決」

「そうかな？」

「うん。そういうとこ好きだよ」

藤ヶ谷くんはさらっと会話の中にそういうの入れてくるから、いちいちドキっとする。

そしていちいちドキっとしている私の反応を、面白そうに見ている。




河川敷は走ったり犬の散歩してる人がいたり、キャッチボールしてる親子がいたり、のんびりした時間が流れていた。


熱々のコーヒーに焼き立てのパン。

「美味しいね。外で食べるご飯って倍美味しく感じるよね」

「うん、俺もいつもそう思う。
あったかくなったらお花見しようよ」

「お花見！いいね」


食べ終わったら、藤ヶ谷くんが私の隣で本を読み始めた。

私はスマホでキスミーの音楽をイヤホンで聴きながら、ラーメンの情報をチェック。

頭上を飛行機が飛んで、飛行機雲ができてる。

少し前にみっくんは日本を発った。



みっくん、元気かな。


最初は…確かタイに行くって言ってたっけ。



「…Aさん？」

「あ、ごめん。何？」

「今、北山さんのこと考えてた？」

「え？！」

な、なんでわかるの？

「わかるよ。まあ仕方ないとも思う。ラーメンで思い出すよね」

でも、って続ける藤ヶ谷くん。

目線は本に目を落としたまま。

「……面白くは、ない」


お？


「ヤキモチ妬いてるの？」

いつもからかわれてばっかりだから、たまには、と思って言ってみると。

「妬くけど。悪い？」

顔を上げた藤ヶ谷くんと目が合った。

「……全然悪くない」


やっぱり違う、って思う。

想像以上に。

藤ヶ谷くんは素直に感情を表現してくれるし、言葉でも伝えてくれるし、ドキドキして、幸せで。

今でもたまに現実じゃないみたいだ。

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