ロンリーオンリーパラダイス ２〈完結〉

62. ページ22

「…された」

「へえ」

「仕事で海外行くから一緒に行かないかって言われたの。
みっくんは気が合うし、一緒にいたら楽しいし。
歳が近いから話だって合う」

「……そっか」

「藤ヶ谷くんは何考えてるかわからないし。
振り回されてばっかりだし。
急に優しくなったり、急に怒ったりするし」


藤ヶ谷くんが私を困ったように見つめてる。


「記事見た、よ」

「それなんだけど」

「私また彼女のフリしてもいいよ？」

「…え？」

「ミノリさんと付き合っていくのにカモフラージュがいるなら、それでもいいよ」

「何言ってんの？そんなことしなくていいよ、だいたい北山さんと結婚するんじゃないの？」

「……断ったよ」

「え？」

「最大の婚期のチャンス逃したの藤ヶ谷くんのせいだからね！」

「え、ちょ、待って」

「藤ヶ谷くん8つも年下だし、めちゃくちゃ可愛い彼女もいるし。
好きになってもいいことなんて、何一つないのに」

「Aさん」


「何一つないのに。なんでこんなに好きなんだろ……」


藤ヶ谷くんのおでこが、私のおでこにこつん、ってぶつかる。


「ねえ、Aさん」

「う、うん」

「あの記事は嘘だよ。俺、ミノリとは別れたんだ。
Aさんと舞台見に行ったあと」

「え？！そうなの？でも今日電話で…」

「あれは。記事が出るからごめんって言われただけで。
本当にもうみいとは何もないから」


そう、だったんだ。


「で。北山さんと海外行かないし、結婚しないんだよね？」

「は、はい」

「俺のことが好きだから？」


ちょっとこれ。何の仕打ち。


「そう…」

です、って言う言葉は、最後まで言う前に飲みこまれた。

キスされたから。


「俺も。好きだよ、Aさん」


「え？え？！嘘でしょ？」

「嘘じゃない。嘘もフリももういらない」


藤ヶ谷くんの長い指が私の頬にふれる。


「本物の彼女になってよ」


掬い上げるように重ねられた唇が、熱を持ってる。

息が苦しくなって藤ヶ谷くんを見上げると、ちょっと不満そう。


「ちょっとショックだった。何一ついいことない、とか」


そう言って、にやり、と笑う。

「いや、それはその。言葉のアヤというか」

「まあいいか」

「じゃあ藤ヶ谷くんは私のどこが好きなの？」

「そう言われるとよくわからない」

「ほら！そうじゃん！」


「よくわからないけど好きって最強じゃない？」



そう言って笑う藤ヶ谷くんを見て。




そうかもしれないって、思った。

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