ロンリーオンリーパラダイス ２〈完結〉

57. ページ17

「藤ヶ谷くん、あの。エレベーター着いたよ」

「うん、知ってる」

「じゃあ開けて…」

「嫌」


嫌って。

駄々っ子みたい。


「だってAさんすぐどっか行っちゃうから」


ん？どういう意味？

「あの。この間は病院連れて行ってくれてありがとう。
食べものもすごく助かった」

「うん」

「あと、別に藤ヶ谷くんのせいじゃないから責任感じないでね」

「責任？」

「そう」

「責任とか…そんなんじゃないんだ」

と、その時、藤ヶ谷くんの携帯電話が鳴る。

藤ヶ谷くんが顔をしかめて、誰からの着信か見たあと、ちょっとびっくりした顔をしてる。

「電話鳴ってるよ？」

「後でいいよ」

「でも…」

着信はなかなか鳴り止まない。

「私も仕事戻らないと。だから出て」

「仕事終わったら、続き話したい」


藤ヶ谷くんがようやくエレベーターのボタンから手を離す。


降りて藤ヶ谷くんに背を向けても、まだ心臓がどくどく鳴ってた。


自席に戻りかけて、今日はみっくんのお店に行く約束をしていたことを思い出す。

藤ヶ谷くんの席を見たけどまだ戻ってきてないみたいだった。

振り返るとエレベーターの通路のところで窓の方を見ている後ろ姿が目に入った。

今日は絶対に行くって約束したし、また別の日にしてもらおう。


「藤ヶ谷く…」

声をかけようとして、まだ電話をしていることに気づいた。

もう終わるかな？と思ってその場で待っていたら、藤ヶ谷くんの優しい声が聞こえてきた。

「俺は大丈夫だから、気にしなくていいよ。みいこそ大丈夫？」

あ、ミノリさん、だったんだ。

「そんなこと思ってないから。泣くなよ」


立ち聞きしてしまったみたいでバツが悪くなって、慌ててその場を離れた。

ミノリさん何かあったのかな。


『ごめんなさい、今日先約があって。
さっき言ってた話はまた別の日でもいいかな』

藤ヶ谷くんにはラインした。

『どうしても今日会いたいんだけど』

ミノリさんの顔がよぎる。

ミノリさんを追いかけて行ってしまう藤ヶ谷くんを目の前で見るの、辛いな。


『ごめんなさい。今日はどうしても無理なの』

『北山さん？』

すぐにそう返ってきて。


私は少しためらったけど。


『そうだよ』


そう返したら、そのあと返事はなかった。

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