エレジーは嫌い【短編集】

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『そろそろ寝よっか』
「…うん」


恐る恐る、といった感じで、髪の毛をくしゃくしゃにした拓文くんが顔を出す。


『いこ、拓文くん』


固く繋いだ手を引くと、大人しくついてきた。
布団で身体を包んでいる様子は、でっかいマントを羽織ってるみたいでちょっとおもしろい。


ベッドに寝っ転がって、すぐそばにある拓文くんの横顔を見る。相変わらずきれい。


『拓文くん、おやすみ』
「おやすみ」



拓文くんのつらい気持ちを、私も背負いたい。拓文くんがつらいなら、私もつらい。
拓文くんが元気になれるように、私ずっと横で見とくよ。拓文くんが幸せなら、私もおんなじように幸せだ。

寝るのはこわい。私が寝ている間に拓文くんがふっと消えてしまったらどうしよう、と何回も考えて、何回も泣いたことがある。寝ている間だけは、拓文くんに会えない。

ただ、今は、あしたの拓文くんを信じて目を閉じる。
あしたは2人とも休日だから、お昼ぐらいまでゆっくり寝よう。だれにも怒られないし、なんにもつらいことないよ。私がそばにいる。それだけ。あったかいスープもつくってあげるよ、拓文くんのためなら。


隣で寝息を立てているその人の頬に、こっそりと手を添える。あたたかい。安心する。ちゃんと生きている。


私はやっぱりまだ死にたくないかも。

こうやって、拓文くんの寝顔を眺める夜が好きだから。


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目は口ほどに / K.Takahira→←いつか心中するまで / J.Kujo *

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