【SERVAMP】鬼の白絹【憂鬱】 (ページ6)

今日:10 hit、昨日:22 hit、合計:43,423 hit

06.知らないことページ6

「さて、と」

ドサッ！と硬い石畳の上に気絶した男の体を雑に放り出して、椿は軽く息をついた。

「これでとりあえず、人に見付かるか夜明けまでに意識が戻れば自力で帰るでしょ」

『自力は無理よ……私、相当に精気吸っちゃったんだもの……当分は目を覚まさないし起き上がれないと思うわ』

「あ、そうなの？あはは！あはははは！あははははははっははははは！」

Aは知らない。

彼が太陽の光で灰になって死んでしまう、吸血鬼だということを。

朝日が昇るまでに誰かに助けてもらえなければ、彼はこの日当たりの良い境内でこのまま死を迎える事になるのだ。

しかしどの道、最初から殺すつもりだった者がどうなろうと椿の知ったことではない。

だから、彼を普通の人間だと思って死なせないよう取り計らっているAに、わざわざそれを教えてやる必要もない。

「行こうかA――1000年後の世界に」

そんなつまらない話よりも、今は鳥居の向こうに広がる外の世界を見せてやる方が、よっぽど面白いだろうから。

＊＊＊

『この時代の夜ってすごく明るいのね……人もたくさん出歩いているし……見たことないものだらけ……』

きょろきょろと視線を走らせながら感慨深そうに呟くAに、その手を引いて先を歩いていた椿が後ろを振り返る。

「あはっ！まあそうだろうね……色々と気になるかもしれないけど、それはまた後で。ちゃんと歩かないと転ぶよA」

『そう、ね……あの、でも… ねぇ、本当に角を隠さなくていいの？やっぱり驚いている人もいるみたいなんだけど…っ？』

椿が貸した羽織りを肩に引っ掛け、それを空いた片手で手繰り寄せるようにしながら、Aは擦れ違う人々をちらちらと目で追い掛けては様子を窺っている。

「あっは！大丈夫だよ。見慣れないからびっくりしてるだけで、きっとコスプレだと思うはずだし」

『……こす、ぷれ…？』

1000年以上も前の日本に、外来語は存在しない。

耳慣れない単語に疑問符を浮かべて首を傾げるAに、椿はまた発作的に笑い出した。