18.オジサン ページ18
「おはよう、Aちゃん」
その日、Aが自室を出ていつもの部屋へ行くと、見覚えのある長い赤髪の男が１人ソファで寛いでいた。
『おはようございます、ええと……』
「たはは、オジサンはヒガンだよ」
『ひがんさん』
咥えていた煙草を消して煙を払うヒガンに、Aはすぐ隣のソファへ近付き腰を下ろす。
『ここで会うのは何だか珍しい気がするわ。最初のとき以来だもの』
椿達とは連日顔を合わせていたものだが、ヒガンとは全く会う機会がなかったことにAは何故だろうと首を傾げた。
「ああ、オジサンはここを留守にすることが多いからね」
『しゃむさんと桜哉くんがこの部屋にいないのも、初めて』
と言っても、まだAがここに来て３日しか経っていないのだが。
最初の晩は互いの紹介もそこそこに終わったものの、その後２日間で色々とあったものだから、Aにはもうそこそこの月日をここで過ごしたかのような妙な感覚があった。
「たはは、オジサンはシャムロックには嫌われてるからなあ……それに今日は平日だから、桜哉は学校に行ったんじゃないかな？」
『がっこう？』
聞いたことがない単語にAが再び首を傾げれば、ヒガンは初日に椿が言っていた事を思い出して納得した。
「あー、1000年前にはないのか……うん、致し方ないねえ」
『？』
「たはは、学校っていうのはこの時代の子供達が集まって勉強を教えてもらう所だよ。読み書きとか、計算とか」
そう教えてやれば、Aは感心したように声を漏らしたあと不思議そうな顔でヒガンに訊ねる。
『この時代では、吸血鬼が当たり前なの？』
「うん？」
『えっと… 桜哉くんは椿の眷属でしょう？ 人間の子達と一緒で、食事とかどうしてるのかなって』
「……」
正直、ここまでの会話で彼女がその点にまで考えが及ぶと思っていなかったヒガンは、Aについて事前に聞いていたのと幾分違う印象を受けた。
無知で、どこかズレていて、好奇心旺盛で警戒心がなくて、まるで小さい子供のようだとか、椿達からはそんな風な話が多かったから。
「たはは、桜哉は人間のフリをして学校に行ってるんだよ。吸血鬼は本来、架空の存在だからね……Aちゃんは、今までどうしていたんだい？」
『私、この前まで笛に封印されていたから』
「ったはは！ そうかい、こりゃ参ったね」
突拍子もない話を臆面なく事実として語るAに、拍子抜けしたヒガンが思わず笑い声をあげた。
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作者名：きー | 作成日時：2017年5月8日 3時
