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真木がトイレに言ってからもうすぐ十分が経とうとしている。
聞こえてくる水の音は一向に止まない。その代わり、真木のしつこいくらいの「そこにいますか」も聞こえなくなっていた。
やっと大人しくなったと安心する反面、あいつは何をしてるんだと苛立ちすら覚える。
「真木、まだ出てこないのか」
いい加減遅い……、と続けようとしたその瞬間。トイレの向こう側から、真木の泣きそうな声が聞こえてきた。
「ドア、開かないんです……。ドアノブ、壊れちゃってるのかも……」
何を言っているんだと思った。
なら、今聞こえている音はなんだ、と聞こうとしてやめた。怖がらせるのは良くないと判断し、周りに人がいないことを確認する。
何やってんすか、と呆れた顔で藤原が言うものだから反射的なものだとこちらもムキになって言い返す。
「真木、入るぞ」
念の為、一言断わって入る。電気のついていない女子トイレは薄暗く、真夏であるというのに随分冷え冷えとしている。
半袖から剥き出した腕のうぶ毛が逆立つほどに寒い。
「……うっ、わ。何ここ、ちょー寒いじゃないっすか。ぶちょー見てくださいよ、サブイボ!こんなに出てる」
ケラケラ笑いながら細っこい腕を見せてくる藤原を他所に、俺はガチャガチャと回るドアノブを見ていた。
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作者名:さっく。 | 作成日時:2019年4月22日 16時