眠りに誘う。 ページ37
決戦当日の朝、クザンはバサリと白いコートを羽織りながら、Aの言葉を思い出していた。
───「海賊って悪い人たちなんですよね」
自分はそうだ、と答えた。海軍大将としては、そう答えるのが正解だった。だが、Aにとっては…
───「幸せなんですね、私。」
白ひげ海賊団で過ごしていた頃のAは、少なくとも幸せそうだった。よく笑うようになった最近よりも、ずっと。
前々から抱えてた、「正義」についての葛藤は徐々に酷くなっていく。だが、今日はそんなことを考えている暇はない。
白ひげは、"火拳のエース"と、"A"を、取り返しにやってくるだろう。
( 渡すわけにはいかねェんだ。)
処刑台の下に座っている、赤犬と黄猿の元へと足を踏み出した。
＊＊
ある朝、私はコビーさんとヘルメッポさんに連れられて、初めて部屋の外に出た。
階段を何回も何回も降りて辿り着いたのは、窓のない部屋。……おそらく、地下室だろう。
「ごめんね、今日一日だけだから。」
申し訳なさそうに謝るコビーさんを見て、察した。
( いよいよ、か。)
今日が、エース処刑の日。
ここに来るまでの各所各所に多くの海兵さんが立っていた。警戒ゆえだろう。
一人きりの部屋。設備なんかはいままで暮らしていた所と全く同じ仕様になってて、気遣いを感じた。
ぐるりと見渡し、天井の隅に換気口を見つける。
それを見た私は、お茶の準備を始めた。
湯気を出すティーカップのなかに、トポン、と錠剤を沈める。
クザンさんに「夜眠れない」と相談して貰った睡眠薬。決して致死量は貰えなかったが、眠りを誘うのには十分な量だ。
そっとドアを開けて顔を出すと、いつも通りドアの外にはコビーさんとヘルメッポさんがいた。
『お茶しませんか？』
「ごめんなさい、今日はここから離れたらいけないんです。」
「今日ばっかしはなァ…」
眉を下げる二人に、それじゃ、とお茶の載ったトレーを差し出す。
「そこででもいいのでよかったら飲んでください。もういれちゃったので……」
優しいコビーさんは、こういったら絶対に飲んでくれる。ヘルメッポさんも、なんだかんだ優しいし。
ありがとう、と受け取って立ちながら紅茶を流し込んだ二人が、カップを私に差し出す。
「おいしかったです、ありがとう！」
「美味かったぜ！」
卑怯だとは自覚してる。だけど、それでも。
笑う優しい人たちに、ごめんなさい、と心の中で呟いた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2717人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ONEPIECE」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
xxxxxers(プロフ) - 本当にワンピースミリしらでタグにトリップと書いてあったので興味本位で見てみたんですけどなんとこんなに面白くて考えさせられるお話だとは！！！もう本当にあとがきで書いてあることって事実だなーって思って涙が止まりませんこんな素敵なお話ありがとうございました (4月27日 22時) (
レス) @page50 id: 13f4a23a05 (このIDを非表示/違反報告)
アップルパイ(プロフ) - お話自体も泣けるしあとがきで追い討ちかけてきた…最高すぎる作品です…‼︎ (2月28日 22時) (レス) @page50 id: 0ce3ef1535 (このIDを非表示/違反報告)
ミキ(プロフ) - この話凄く好きです！最後の方泣きそうになりました笑他の作品も読んでみたいなって思いました！ (2月3日 6時) (レス) @page50 id: 8f0b2947d1 (このIDを非表示/違反報告)
ロイ - すんごくよかったです！ワンピースの作品を読んだのは初めてなんですけど、面白かったです！夢主ちゃんの優しいところがすごく好きです！ありがとうございます！ (9月2日 12時) (レス) @page50 id: 97a54b5f8a (このIDを非表示/違反報告)
ゆきの(プロフ) - 何年も前に読んだこの作品の内容をふと思い出して、必死に検索し続けてようやく再会出来ました。最後に読んでからこんなに年月が経っているのに、また読みたいと思わせてくれるような作品を作ってくれて本当にありがとうございます (8月7日 0時) (レス) @page50 id: 0f8f6ed9fd (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：もちチーズ
| 作成日時：2018年2月3日 9時
