【刀剣乱舞】妖物語 (ページ19)

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112.妖ページ19

平野.

「彼女程厄介な＂妖＂はいないと思うんだよね」

青江様はお茶を啜りながら言った。

彼女というのはきっと主君のことだろう。しかし我が主を、しかも熱で寝込んでいる主に＂妖＂なんて平気そうに言うのはきっと青江様や鯰尾兄さんのような主君のことを心から信頼している刀剣だけなのだろう。

「妖……ですか？」

僕は苦笑いを零しながら言った。

「僕ら刀剣男士を不幸にしたり、迷わせたり、傷つけているのは間違いなく彼女だと、僕は思う」

「……だから、妖というのですか？」

「早とちりはいけないよ。まだまだ子供である彼女は僕らを不幸にするだけじゃない。短刀の君達くらいに小さな手は嘆く刀剣男士に差し伸ばして、細くて華奢な身体は彷徨い迷う刀剣男士を抱き締める」

……たしかに、そうだった

主君は温かくて優しい。内気に見えて天真爛漫。

消えてしまいそうだった骨喰兄さんを救って、薬研兄さんと厚兄さんを許して、五虎退の傷を癒した。

「運が良いとも言えるよね。彼女の守護霊は八百万の神に好かれているのかもしれないね」

「多すぎやしませんか？」

「八百万には届かないけど付喪神である刀剣男士を従わせ、厄介な心を持たせ、残酷な感情を抱かせ、時にはその感情を抱くのさえも幸せだと感じさせる彼女は＂妖＂に等しいんじゃないかな」

どうやら青江様は主君のことを人間として見ていないようだ。

たしかに厄介な心も、残酷な感情も物である僕達には不要なものなのかもしれないけれど、最終的にこの心と感情を持って良かったと思えるのなら、僕は嬉しく思えるのだ。

「平野は人間になって良かったと思ったかい？」

「……はい」

「二代目が彼女で満足かい？」

「……それはまだ解りません。けれど、信じてみようとは思っております。前代の主君が遺してくれた宝を、僕は全力でお守りしようと思います」

「彼女が彼の宝、ねぇ……」

青江様は目を伏せて口角を上げた。

「彼女は僕達、刀剣男士の何かを変えるよ」

「……そうですね」

「頑固者の君のお兄さんも近いうちにあの子に絆されるかもしれないね」

「それはそれで楽しみですね」

「おや、どこかに行くのかい？」

「主君の様子を見てきます」

僕は立ち上がり、部屋を出た。

……絆される

一兄の、また心から笑っているところを見れたら、それ以上の幸せはないのだ。

そう思いながら、僕は主君の部屋へと向かった。

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