56.信じるから疑う ページ10
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「俺達は人間になれねぇよ……」
『厚くん……』
「どう足掻いたって……歳はとらねぇし、身長も見た目も変わらないんだからな」
彼らを人間だと思っていた私はショックを受けた。
じゃあ彼らは何故、私を人間だと思っているのだろうか。私も人の形をした化け物に変わりはない。私は血が吹き出てもすぐに治るし、刃こぼれした刀もすぐに直せる。そんなの人間じゃない。
私は、人間じゃない
でも私は人間でいたいのだ
『今剣くん』
「!」
『私、みんなのこと知らないの。無知で、それでも知りたいから強欲なんだよ。無知で強欲なんて愚かと思うよね?でも知りたいんだよ』
「……だから、なんだっていうんですか」
『言ったでしょ?私は知らないって。だから政府が派遣した審神者が貴方達にやった仕打ちを私は知らない』
一歩一歩、今剣くんの元に歩み寄る。
薬研くんは今剣くんから離れ、今剣くんは逃げたり隠れたりもせず、ただ私を睨みつける。
『じゃあ貴方は私の何を知ってるの?』
「……わかります」
『何を』
「あなたがおろかでごうよくできたないにんげんだってくらい、ぼくにはおみとおしです」
『うん、そうだね、大正解。愚かで強欲でおまけに汚い。私は貴方達の心を手に入られるのならどんな汚い手を使ってでも手に入れると思うよ』
「……こころ?」
『そして、貴方の今の主は私なのだと、その身体に心に脳に叩き込ませるの』
そして私は今剣くんの身体を寄せ、抱き締めた。
『私が今貴方に触れているのは、私は貴方に殺される覚悟が出来ているということなんだよ』
「……っ」
『殺さないならもっと抱き締める。頭を撫でるし、貴方達は小さくて可愛いから愛でるし、時々カッコイイとも言う』
すると、背中に衝撃。
振り向くと五虎退くんが私に抱きついていた。私は今剣くんから離れるとしゃがんで二人の手をとる。
「……あなた、てがふるえてますよ」
『武者震いというやつだよ』
「……ぼくはあなたをしんじません」
『うん、今はそれでいいよ』
「うたがいます」
『うん』
「しんじたいから、うたがいます」
今剣くんの顔に出ていたヒビが消えていく。息苦しい空気も、彼の瞳も澄んでいく。
信じたいから疑う、なんて嬉しい言葉だろう。私は力一杯頷いて、笑ってみせた。
『……うん、それでも凄く嬉しいよ。今剣くん』
私がそう言うと、今架くんは私の手をキュッと握り返した。
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冬雪(プロフ) - たまごやきさん» コメントありがとうございます。毎回題名が変わる小説ですがこれからも読んでいただけると幸いです (2019年6月9日 9時) (レス) id: 319301ee3c (このIDを非表示/違反報告)
たまごやき - こんにちは。今までコメントしていなかったのですが、いつも作者様の作品を読ませて頂いてます。あんスタの方から読み始めたのですが、どちらもとても引き込まれてしまいとても好きです。これからも作者様のペースで更新してくださると嬉しいです。 (2019年6月9日 9時) (レス) id: 7f42fd7b15 (このIDを非表示/違反報告)
冬雪(プロフ) - 幸別愛友さん» コメントありがとうございます。これからも頑張ります。 (2019年5月25日 15時) (レス) id: 13dcdbbff5 (このIDを非表示/違反報告)
幸別愛友 - すごくいいお話です…(*´^-^`*) その文章能力わけてほしいくらいです…(>д<。) これからも更新頑張って下さい!楽しみにしてます!! (2019年5月25日 12時) (レス) id: 978af02bfc (このIDを非表示/違反報告)
冬雪(プロフ) - 瑠花さん» 他人が作ってしまうと自分が作った物語が思い通りにいかなくなります。誰も語彙力がないことを馬鹿になんてしませんよ。馬鹿にする方が馬鹿なんですから (2019年5月24日 22時) (レス) id: 13dcdbbff5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:冬雪 | 作成日時:2019年5月20日 21時