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Aはスケッチブックを広げ、あーだのうーだの唸りながら絵をを描き始めた。Aの目はやや虚ろだが、木炭を握る手は意外としっかりしている。
横で見ていた三島は、木炭で描くならキャンバスを使えば、と言おうとしたがやめておいた。
いったい何を描いているのかと見てみると、ちょっと形容しがたいものだった。
普段写実的な風景ばかりを好んで描きまくっているAが、抽象画(で正しいのだろうか)を描いていたのだ。黒をただぐちゃぐちゃと塗りつぶしているように見えなくもない。
ただ猟奇的かと云われればそんな事はなく、花が泣いている、とでも言いたげな哀しげな絵だった。花などそこに描かれてなどいないのに、そう見える。
正直、目をひかれるものだった。三島は、普段の絵よりセンスあるよそれ、と言おうとしたが、やはりやめた。
(こいつ、謝りに行きそうにないわ)
三島はひっそりとため息をついた。
Aは周りより大人びた言動が多いが、時折子供っぽさを見せる。特に、人間関係においてはそれが顕著だ。相手の気持ちに気づかなかったり、やたらに一点だけ自分の非を認めなかったり。Aのそんなふるまいを三島は、気がつく度に直させていた。
でも最近は、お節介が過ぎるかもとあまりとやかく言わないようにしていた。
(今回も放っておきましょう)
三島がイーゼルを片し始めても、Aが気がつく様子はなかった。

#

二週間が経っただろうか。
Aは結局謝らぬままであった。
三島は存外口出しをしてこなかった。おせっかいな彼女なら何か言ってくると思っていたのだ。
(そうやって人に背中を押されるのを待っているから駄目なんだ)
ずっと居心地が悪くて、でも日が経つごとに謝りづらくなっていって、Aは自分でも訳のわからぬ抽象画を量産し続けていた。

しんしんと雪の降り積もる、ある日の放課後。
美術室はいつも通り人がまばらでだった。というかAの他には三島と一年生の女子一人しかおらず、とても静かだった。キャンバスに鉛筆を滑らせる音が聞こえてきそうだった。
いつか壊れかけていた蛍光灯は、いつの間にか直っている。
三島が、ぽつりと静寂を破った。
「A。聞いた?梅野くんの話」
「え?話?」
そのAの様子に、聞いていない事を察した三島は、少し顔をゆがめて言った。
「彼、転校するみたい」
「…は?」
Aはいきなりの話に、気の抜けた声が出た。

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天泣tenkyu(プロフ) - 読みやすい わかりやすい 面白い 、の三拍子ですね!笑めちゃくちゃ読むの楽しくて一気に全部読んでしまいましたぁ…… (2018年10月11日 20時) (レス) id: daeb79a243 (このIDを非表示/違反報告)
ミオ(金欠)(プロフ) - 面白かったです。お疲れさまでした! (2018年2月26日 5時) (レス) id: f13eb61b67 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき - 面白いのに、勿体無いと思います。 (2018年1月21日 11時) (レス) id: 581099bb6b (このIDを非表示/違反報告)
ゆき - 読みづらい。 (2018年1月21日 11時) (レス) id: 581099bb6b (このIDを非表示/違反報告)
小梅 - めっっっちゃおもろいです!!二人が再会できて良かったです!!更新頑張ってください!!q(^-^q) (2017年12月27日 17時) (携帯から) (レス) id: 76f089da6a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ぺぺこ | 作成日時:2017年10月30日 0時

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