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そこでAはふと、自分が妥協すべきなのだろうかと考えた。
(俺が三島に会うのをやめればいいんだろうか。それか、ばれないようにこっそり会うとか…)
「それこそ、最低じゃないか」
途方にくれたままリビングに下りて行くと、テレビがつけっぱなしになっていた。
Aはそれを消そうとしてリモコンに手を伸ばしかけて、動きを止めた。
『本日は、ステラガーデンを紹介したいと思います。こちら、カフェが隣接していて───』
テレビの中の女性キャスターが、何やら人気スポットを紹介していた。
(───あ)
その時、Aに鮮烈なイメージが湧いた。
テレビの中に広がる美しい庭には、色とりどりの花が咲き乱れていた。
それを背景にして立つ、笑顔の梅野。
(描きたい)
Aはぐっと拳を握った。久々に込み上げてきた気持ちだった。
(梅野とここに行きたい、描きたい。きっと、よく似合う)
一度そう思ってしまうと、Aはもう自分を止められなかった。携帯を手にとると、すぐに梅野に電話をかけた。
『──もしもし』
十日ぶりに聞く梅野の声だった。
「もしもし、梅野?」
『…なに?』
「明日、デートしよう」
『………』
しばらく間が空いた。空いて、
『はぁあ?』
梅野の気の抜けた声が返ってきた。
『ちょっと、待って…』
梅野は困惑したように聞いてきた。
『僕ら、ケンカしたよね?』
「したな」
『十日も口をきいていないはずなんだけれど』
「そうだな」
『どうしていきなり、そんな話になってるの』
「梅野を絶対に連れて行きたい場所があるんだが」
梅野が怒ったように言った。
『ねえ、僕の話聞いてないよね』
「うん。ごめん。聞いてない」
『なっ…』
続けて梅野が何か言う前に、Aは遮った。
「あのさ、俺、十日間ずっと梅野のことを考えていたんだ。けど…結局なんで梅野が怒ったのかよくわからなかった。でも、やっぱり会いたいんだ。会わないと、わかることもわかんないだろ。これでも俺は、梅野の全部を知りたいし、自分のものにしたいと思ってるんだ」
『ぜ、全部?……な、なにそれ…』
照れて梅野が黙った隙に、Aは畳み掛けた。
「それに、正直限界だ。もう十日もキスしてない。それから…」
『うわあああ!!待って!!もうそれ以上言わなくていいから!』
「うん。じゃあ明日、十時に御園駅で」
『………馬鹿』
「知ってる」
『ぜったい行かないし』
「うん。じゃあ、また明日な」
*
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すらいみーる@元もちづき(プロフ) - 以前からぺぺこさんの作品を読ませて頂いているのですが、すごくおもしろくて更新とても楽しみにしてます!!!これからもぺぺこさんの一ファンとして応援してます! (2018年9月11日 23時) (レス) id: 3b52443fef (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ぺぺこ | 作成日時:2018年4月14日 21時